金魚屋から『夏目漱石論―現代文学の創出(日本近代文学の言語像Ⅱ)』を好評発売中の、鶴山裕司さんの『美術展時評』『No.093~98』をアップしましたぁ。6連投です。藤田、デュシャンから顔真卿、東寺、福沢一郎、ルート・ブリュックまで、さらりと美術批評を書ける人はなかなかいないでしょうね。美術批評といっても文学との関係や時代背景などを的確に認識・分析し、総合的美術論、作家論を書けるのが鶴山批評の特徴です。特に池袋モンパルナス関係は強いですね。
先日経産省が年金だけで暮らしてゆくのは難しい、2000万円は不足するだろうという報告書を出しました。政府の対応や現行年金制度に問題があるのは確かですが、実感として、それはそーだろうなーと納得する試算ではありました。一昔前、1980年代頃は、男性は60歳で定年になり70代後半くらいで亡くなる方が多かった。女性は80代半ばくらいでしたね。それがどんどん伸びている。近い将来、夢物語ではなく現実に、男女ともに90代後半くらいまで平均寿命が延びる可能性は高い。そーなると、定年後の余命20年くらいという現行システムが狂ってくるのは当然です。つまり単純に考えても、最低でも停年70歳、職能のある人は80歳停年くらいにしないと合わなくなる。現代は医療も含めて社会が大きく変わりつつある時代ですが、それに社会システムが追いついていない面があります。
で、ひとまず政治批判は棚上げにして、石川が考えるのは文学の話しです。すんごく乱暴に、人間20歳くらいまでは子供だとしましょう。永田耕衣に「少年や六十年後の春のごとし」という俳句があります。還暦を迎えると人間は子供(少年)に戻るという意味です。だけど平均寿命が延びているのですから、人間100歳までと仮定すると、80歳くらいまで肉体的、知的に健康を保てる人が増えるはずです。すると人間の実質活動期間は、単純計算で20歳から80歳までですね。実に60年です。けっこうリアリティのある設定だと思いますが、この変化はけっこう面白いというか、大変ですよぉ。
60年の実働期間は、多分、前後半に分かれます。分けることができる。20歳から50歳、50歳から80歳ですね。芸術の世界に限りませんが、一昔前は20歳から50歳の仕事(実績)がすべてで、その後は余生という感じでした。しかし違ってくるでしょうね。実感としても、20代から40代ですんごくいい仕事ができると思っている人は少ないんじゃないかな。50歳くらいで頭角を現して、70歳くらいでピークを迎える作家が増えてくるはずです。そのくらいの時間的余裕がある。また現代は変化が激しく将来を見通すのが難しい時代なので、的確な方向性を見極めるには時間がかかる。50歳くらいでヴィジョンを得て、70代、80代が全盛期という作家が出て来る素地は充分あります。成熟が深く的確なヴィジョンを持っていれば、後者の方が決定的な仕事をするかもしれません。
鶴山さんなどは、後半スタート作家の最初期の例になるかもしれませんね。もち実働期間の前半を遊んで暮らしていたわけではないですが、漱石論などを読んでいても、現代社会の動向を見切って将来の文学ヴィジョンを立て、旺盛に執筆しているのがはっきりわかります。文学金魚では右端の欄で、作品別、著者別にコンテンツを検索できます。鶴山さんに限りませんが、どの作家がどういう仕事の幅でどのくらい書いているのか、ある著者の執筆分野とペースの例として参考にしてみてください。
人間、何をやるにも遅すぎるということはないとよく言いますが、現代ではそれがリアルな実感を持っています。80歳まで現役と考えれば、定年後に大学に行く時間だってある(笑)。文学金魚では、若手作家(前半デビュー作家)だけでなく、本当に力のある後半デビュー作家も発掘、紹介していきたいと思っているのでありますぅ。
■ 鶴山裕司『美術展時評』『No.093『没後50年 藤田嗣治』展』 ■
■ 鶴山裕司『美術展時評』『No.094『マルセル・デュシャンと日本美術』展』 ■
■ 鶴山裕司『美術展時評』『No.095『特別展 顔真卿-王羲之を超えた名筆-』展』 ■
■ 鶴山裕司『美術展時評』『No.096『福沢一郎-このどうしようもない世界を笑いとばせ』展』 ■
■ 鶴山裕司『美術展時評』『No.097『特別展 国宝 東寺-空海と仏教曼荼羅』展』 ■
■ 鶴山裕司『美術展時評』『No.098『ルート・ブリュック 蝶の軌跡』展』 ■
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■ 第7回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第07回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
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