萩野篤人 文芸誌批評 No.003 樋口六華「泡(あぶく)の子」(すばる二〇二四年一一月号)、連載小説『春の墓標』(第08回)、連載評論『人生の梯子』(第05回)をアップしましたぁ。すばる文学賞を受賞なさった樋口六華さんは受賞時十七歲です。早熟ですね。佐藤知恵子さんが取り上げた小説現代長編新人賞受賞の珠川こおりさんも受賞時十八歲でした。
女性の方が早くから肉体的にも言語的にも成熟度が早い傾向はあります。とにかくボキャブラリと言葉数が豊富。また頭でっかちの男性作家が従来一番得意として来た社会的テーマを見失っているのに対し、女性作家の根源的生命力というテーマは普遍的です。ただ文学ジャンルの不況は深刻でそれは小説にも及んでいます。極めて高い言語能力があり若ければ小説以外のジャンルでも才能を発揮できる可能性がある。小説界は若く優れた才能を逃さないように頑張らなければなりませんね。
小説『春の墓標』はいよいよお父さんとの戦闘開始です。自宅介護は戦争なのです。すべての甘い幻想は打ち砕かれ残酷極まりない現実が剥き出しになります。極端なことを言えば介護疲れの殺人や心中を責めることはできない。ただ殺人や自死が悲惨な現実の底なのかと言うとそうとも言えない。悲惨の底は決して見えないですが生きている人間は限りなくそこに近づくことができる。『春の墓標』は不可知の混沌の無とも言える他者――しかも慣れ親しんだ近親者の父親を通して残酷な現実の底に近接しようとする新しいタイプの私小説です。
■萩野篤人 文芸誌批評 No.003 樋口六華「泡(あぶく)の子」(すばる二〇二四年一一月号)■
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