萩野篤人 連載小説『春の墓標』(第06回)&連載評論『人生の梯子』(第03回)をアップしましたぁ。親の認知症に直面するのは誰にとっても厳しい経験です。介護する人の頭の中には様々な思念が浮かんでは消えるはずです。まずなぜなんだろうと考えるでしょうね。過去を振り返って原因を探したりする。あんな親だったから認知症になったのかもしれないと考える。病気のせいだと考えたりする。しかしいくら思考を巡らしても現実は変わらない。結局は目の前にある残酷な現実に直面し続けるしかありません。
人間には時として理不尽が襲いかかります。自分で選んだことだったり、外的な要素からそれが襲いかかって来た場合にはまだ納得できる余地はある。しかし自分にはまったく非もないのに襲いかかって来るのが理不尽というものです。親の認知症と介護は最も静かな理不尽でしょうね。放っておくわけにはいかない。目を逸らすわけにはいかない。
この理不尽を人間の思考で乗り越えるのはとても難しい。そうしようとすれば、多かれ少なかれ宗教というものが強く意識されるはずです。一番簡単なのは救済。でもそれは欺瞞に過ぎません。宗教的逃避はいっときの現実逃避に過ぎないからです。多くの人がそうと知りながら思考停止の宗教的救済にすがります。でもその欺瞞を突き詰めるとどうなるか。萩野さんの『春の墓標』は裸眼で理不尽を見つめています。その基盤に『人生の梯子』などで論じられている思想があるのは言うまでもありません。
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