星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第09回)をアップしましたぁ。第二帖「帚木」の続きで「雨夜の品定め」です。相変わらず雅でとても丁寧な訳です。谷崎訳『源氏』みたい。
で、左馬頭や頭中将が話しているのですが「源氏は言い返しもせず寝息を立てておりました」とある。これはいわゆる狸寝入りです。まだ女性遍歴が乏しい光源氏は二人の女性談義にじっと耳を傾けている。耳学問です。平安の昔から情報は大事なのであります。もちろん平安時代も今と変わらず、仕入れた情報を活かせるかどうかは当人次第。貴公子光源氏は十全に耳学問を活かします。
「雨夜の品定め」は現代から見れば男たちの身勝手な女談義です。ただ〝真(まこと)というものは決して奇を衒ったものではない〟という東洋思想が流れています。「なんでもない景色、よく知る山々、せせらぐ河川、目の前にある家屋そのもの、そんなものを写し描くなら下手であっても懐かしく、上手であれば自然(ほんもの)と見紛うものとなる。そうした絵に描かれた緩やかな尾根の姿や木叢の蔭の隠処(かくれが)の、自然(ほんもの)を敬って誠を尽くした筆遣いこそが見物を絵の向こうにあるものの想像へと搔き立てるのです。そんな絵にこそ名人の業の真髄が顕れ、半端者ではつまらない見栄えのしないものしか描けないのです」とある。源氏の色好みの基本ですね。
■星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第09回)縦書版■
■星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第09回)横書版■
■ 金魚屋 BOOK SHOP ■
■ 金魚屋 BOOK Café ■