松原和音 連載小説『学生だった』第07回をアップしましたぁ。うん、いい出来の小説です。このくらい書くことがあると読む方もスムーズに目が進んでいきます。
バスの中で、再び涙が浮かんできた。床にりんごが転げている。坂道でバスが傾いた。りんごも、前に転がっていく。どこかの奥さんが、慌てて回収をする。それだけのことで、私はクツクツ笑った。この頃、感情の起伏が激しい。メーターを振り切ってしまったなにかは、ヤケになる状態に似ている。そのまま思考停止して、盲目になればいいんだよ。ラクしたい私が言う。総量が多すぎるのと、ゼロなのとでは根本が違うでしょ。停止の意味、わかってる? 今度は誰だろう。色々な人が脳内で発言している。疑われたって、心の中まで覗けるわけじゃないんだからさ。きれいごと言ったもん勝ちよ。やー。世間の人はそんなに鈍くない。はず。たぶんね。あんたはそう言うけどね。がっかりしても保障はしないよ。心根が違ってもね。同じ言葉を使ったら、それだけの意味しか伝わらないわけでね。本音を言いたい党の議員が、相手方につかみかかりはじめた。ヤジがとぶ。○○とデキてるー。あんたは世間ってものがわからないからそんなことが言えるんだよー。世渡り党の党首だ。お前みたいになったら、人として終わりだろうが。お前の人間性なんて、そもそも興味もたれてないよ。こっちが本心で言ったことでもね、受け止め方が悪けりゃ、どうにもならないわけで。本心言ったら、正真正銘の馬鹿にまでしたり顔されるぞ。あんたが普段、軽蔑しきってるような奴にな。反対意見なら、黙ってりゃいいんだよ。全員、全員うるさいよ。耳栓してるのに、一睡もできん。明日はゴルフなんだよ。机をたたく音。要は一体、なにが言いたいんですか? まとめに入ろうとした一言で、また場がざわめく。結論なんか、簡単に出ないんだよ。だから、こうして集まってるんじゃないか。世の中、愛よ。女性の議員が立ちあがった。ピンクを着た美人だ。それこそきれいごとじゃないか!これは大変だ。大乱闘で議論が進まない。本音と建て前が混ざっている。大人の世界だ。表情を作るのを忘れてへらへらしていたら、つり革につかまるおじさんと目が合った。
松原和音 連載小説『学生だった』
改行のない約800字の客観描写と内面叙述。こういう文章というかエクリチュールは作家の方の精神力が高揚していて、書くことが有り余るほどある時しか書けないですね。問題はその維持。どんな作家もNextで苦しむわけです。
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