小原眞紀子さんの連載小説『幕間は波のごとく』第18回をアップしましたぁ。金魚屋から『文学とセクシュアリティ-現代に読む『源氏物語』』を好評発売中の小原さんの連載サスペンス小説です。中年に差しかかった姉妹を主人公集団にしたサスペンス小説です。
ほんで今月末に小原さんの小説『香獣』が金魚屋から刊行されます。詳細な『源氏物語』論の著者らしく、源氏香などの香道を小道具にした本格的ミステリー小説です。単なる謎解きではなく〝香り〟が殺人事件を引き起こし、その解決をもたらすという何重にも楽しめる小説です。
小原さんの小説単行本は初めてですが、小説家としてのキャリアはかなり長い。詩人として出発されましたが、まあはっきり言えば、詩だけに関わる作家に見切りを付けて、いち早くマルチジャンルに歩み出した作家さんです。
これはひじょーに言いにくいのですが、詩人が小説を書くといわゆる〝詩人小説〟になってしまうことが多い。詩を書く時のノウハウや手慣れで小説を書いてしまうんですね。昔々大江健三郎さんが「ホントのこと言えば詩人が書いた小説でろくなものはない」と言っちゃいけないことを言ってしまったことがありますが、石川もまあそーだよなと思います。小説を書いても結局のところ詩人の認知で止まる。芥川賞なんかをもらったとしても、読者の記憶に強く残る小説代表作を生み出せないんですね。ああ小説も書いているんだよねーくらいの認知で終わる。
しかし小原さんは違います。武士は食わねど高楊枝の詩人さんが小説を書くとたいてい純文学になりますが、小原さんはいわゆる大衆文学に分類されるサスペンス小説をお書きになる。かつそこで純文学的要素を追求してゆかれる。底の方では繋がっているにせよ、詩と小説の書き方をハッキリ切り分けておられます。
なぜそんなことができるのかは小原さんの『源氏物語論』を読めばわかります。小原『源氏物語論』は源氏物語論であり小説の書き方のノウハウ本でもあります。日本で最も権威ある小説古典である源氏物語を現代的視線で分析することで小説の書き方を体得しておられる。漱石が『文学論』などで英文学を詳細分析して小説の書き方を体得したのと同じです。
まあハッキリ言えば、詩人、歌人、俳人が見よう見まねで小説を書いても小説っぽい小説にしかなりません。違いを無視するから、あるいは違いをはっきり認識しないからです。石川は何度も言っていますが文学ジャンルを越境するのはそう簡単なことではない。根本的に各ジャンルの違いを底の底まで認識把握しなければ他ジャンル創作はできません。小原さんはそれができているからサスペンス小説を書ける。詩人が徒手空拳で優れた小説を書けるほど小説は甘くないのです。
■ 小原眞紀子 連載小説『幕間は波のごとく』第18回 縦書版 ■
■ 小原眞紀子 連載小説『幕間は波のごとく』第18回 横書版 ■
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