第8回金魚屋新人賞受賞の松岡里奈さんの小説『スーパーヒーローズ』第4回をアップしましたぁ。今回で小学生編は終わりです。主人公の少女がどう成長してゆくのか、いたく興味を惹かれますね。また『スーパーヒーローズ』には過去と現在の記憶が入り交じって表現されます。それがまた魅力的です。
緑の匂いを含んだ風が頬を撫でていく。それに揺られて軽く眩暈がした。地面に当たった時に聞くであろう骨が砕ける音を想像して怯えたり、死に場所をセッティングを完成出来た達成感を噛みしめたりしながら、しばらくその場に留まっていた。
ふと、遠くの方からお囃子のような音が耳に入った。首を傾げる。始めは気のせいかと思うほどに微かだったその音は、こちらに向かって徐々に近づいてきているようだった。
ココホレ、ココホレ
ココホレ、ワンワン
低い声で繰り返される奇異な響きに思わず軽く吹き出した。何の音だろうか、私はその音源を確かめるべく柵から身を乗り出す。すると丁度真下で、ココホレ、ココホレ、ワンワンと激しいお囃子を繰り返し歌いながら、大神輿の集団が前の道を通っていくのが見えた。
(松岡里奈『スーパーヒーローズ』)
主人公のフミが自殺未遂するシーンですが、「ココホレ、ワンワン」がとてもよく効いています。これが「ワッショイワッショイ」だと読者の記憶に残らないはずです。
こういった箇所が小説の〝無意識〟です。優れた小説には必ず無意識領域があります。もちろん文学作品は言語で書かれていて、それは作家によって隅から隅まで統御されています。だから作品の無意識というのは比喩的な言い方ですが、期せずして小説のテーマが実に鮮やかに作品上に表れてくるのです。
こういった小説の無意識は作家が強いテーマを持っている場合にしか表れません。作家はさほど意識せずに「ココホレ、ワンワン」というお囃子の掛け声を書いたはずですが、極端なことを言えばそれが作品の核にまで届く響き(意味)を持っている。『スーパーヒーローズ』は秀作だということです。
■ 松岡里奈 連載小説『スーパーヒーローズ』(第04回)縦書版 ■
■ 松岡里奈 連載小説『スーパーヒーローズ』(第04回)横書版 ■
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