遠藤徹さんの連載小説『物語健康法(入門編)』(第08回)をアップしましたぁ。『物語健康法(入門編)』は小説の力、物語の力というものを考える上でとても重要な作品です。今回は『物語健康法 入門編』より抜粋(その②)です。
では、そもそも「物語」とはなんなのでしょう?
たとえば、『古事記』には「ことのかたりごと」という記述があります。これは、できごとや事件など、対照がはっきり定まっているものに対して語ることを意味していました。それに対して、「ものがたり」は、「もの」についての語りです。「もの」は「鬼」とか「霊」のことです。たとえば、モノノケという言葉を思い出していただければわかるでしょう。ですから、本来の意味での「ものがたり」とは、「こと」すなわち現実とはかけ離れた空想の世界を語ることを意味したと考えられます。さらにいえば、「かたり」は「語り」であると同時に「騙り」でもあります。つまり、かならずしもほんとうのことである必要はなく、いわば嘘でもよいということを意味したのではないでしょうか? というより、わたしにはむしろ虚実の境の曖昧な語り/騙りこそが「ものがたり」の魅力であったように思われます。そして、「もの」について語るということは、その「ものがたり」そのものが、不思議な霊力をおびているということを意味していたのではないでしょうか?
(遠藤徹『物語健康法(入門編)』)
小説は意外と自由な形式です。様々なジャンルに分かれているのはもちん、実験的な書き方もできます。ただ自由詩のように形式的にも内容的にもまったく制約のない表現というわけにはいきません。小説の基本は物語です。ベタな言い方をすると架空の登場人物を設定して起承転結の軸に沿って進行してゆくのが小説というものです。
遠藤さんの『物語健康法 入門編』は小説の王道にのっとっていますが、実験小説でもあります。ただし生粋の物語作家らしくその実験性は修辞(書き方)や物語の破壊に向かうことがありません。物語とはなにか?という問いかけと作家なりの回答を抱えてそれを表現しています。小説という物語を書く作家が物語とはなにか?という直截な問いかけを為せば、作品は必然的に前衛的になるということです。
こういった小説の掟を守りながら実験を行うのは実は難しい。パッと読んで「ああ実験作だね」と感じられるような作品を書く方が簡単なのです。遠藤さんの実験的作風の小説はだいたいいつもこんな風です。簡単に書いているようで実は高度な小説が多い。技巧的にも思想的にも高度なのですが、読者にとって読みやすい小説を書いてしまうのがこの作家の特徴です。
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