遠藤徹さんの連載小説『物語健康法(入門編)』(第05回)をアップしましたぁ。『物語健康法(入門編)』は小説の力、物語の力というものを考える上でとても重要な作品です。今回は政治学者の上条憲吉が語り手です。
「というより、わたしのような学者タイプにとっては、理論的なこちらの本の方が取っつきやすかったと言うべきでしょうね。先生の理論、とりわけ『人生そのものに意味などはない』というハイデガーばり、サルトルばりの考え方に共感しました。ただ、生を受けてこの世界に投げ出されているだけのわれわれは、自分で自分の人生の意味を作るしかないのだというのはその通りだと思いました。つまり、すべては物語なのだということです。人は人生という物語を自ら作り上げ、それを生きるということ。逆に言えば、いまある人生も、物語によって書き換えることができるということになります」
「そうなんです。さまざまな哲学者によって意志の力とか、選択とか、自己決定とよばれているもの、それはつまり、自ら物語を紡ごうとする意志のことなんですよ」
「わたしは、それを最後の望みの綱とすることにしました。そして、その日から物語を紡ぎ始めたのです」
(遠藤徹『物語健康法(入門編)』)
上条憲吉は末期の胃癌という診断を受けたのですが、真田寿福の説く物語健康法で生きる気力を得たばかりでなく癌もいつのまにか治癒したと語ります。それ自体は重要ではありませんが、上条の『自分で自分の人生の意味を作るしかないのだというのはその通りだと思いました。つまり、すべては物語なのだということです』という言葉、また真田の『さまざまな哲学者によって意志の力とか、選択とか、自己決定とよばれているもの、それはつまり、自ら物語を紡ごうとする意志のことなんですよ』という言葉に遠藤さんの小説論、小説の力に対する信念が表れています。
哲学には様々な種類があります。若いうちはいろんな哲学に振り回されがちです。野坂昭如ではないですが、『ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか~』と右往左往するのが普通です。いろんな哲学者の本を読んで、あーでもないこーでもないと考えたりするわけですね。
しかし哲学は肉体的な確信がなければ意味がない。頭でっかちの観念哲学は、病気であれ身辺の事件であれ、人間の心を肉体の底から揺るがすような事件が起こればすぐに霧散してしまう。いろんな哲学を学ぶことは大事ですが、哲学事典のように哲学に精通していてもあまり意味はない。肉体的に『これだ』と確信できる哲学に出会えば、ほかの哲学は学ぶ必要はないのです。
遠藤さんの『物語健康法(入門編)』は小説ですが、小説的な哲学論です。小説に対する遠藤さんの確信的哲学が語られています。論理とか様々な方法でそれを批判したり時には否定したりすることもできますが、作家にとってそれが肉体的哲学である限り、揺らぐことはありません。要するに遠藤さんは生粋の小説家なのです。
■ 遠藤徹 連載小説『物語健康法(入門編)』(第05回)縦書版 ■
■ 遠藤徹 連載小説『物語健康法(入門編)』(第05回)横書版 ■
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