片島麦子さんの連載小説『ふうらり、ゆれる』(第08回)をアップしましたぁ。古羊さん、どんどん年を取ってゆきます。色恋もあるのですが、実に淡々としています。女性が主人公の場合、恋愛関係で大きな事件が起こり、それが小説のプロットになることがしばしばです。しかし古羊さんのように、大きな事件が起こっても激しく動揺しない場合もありますね。
自足、というのが一つのキーになるかもしれません。世の中を冷ややかに眺めるような視線です。この自足はどーも女性的なものらしい。女性的といふのは小原眞紀子さんの『文学とセクシュアリティ』にあるように、必ずしも男女の生物学的な差ではありません。生物・男も生物・女も持っているわけですが、小説の場合、それを女性主人公の生に沿って表現する方が効果的に表現できます。女性が恋愛=男関係で大騒ぎする小説展開も、女性性的自足が乱されるから、と言った方がいいのかもしれません。
こういった冷ややかな視線は日本の古典文学にも見られます。虫めづる姫君という有名な短篇が堤中納言物語にありますが、深窓の姫君が気持ちの悪いイモムシなどを飼っている。で、「女と鬼は人に見えぬぞよき」と呟いたりする。
女性の社会進出が閉ざされていたからというのは確かにその通りですが、それでは社会学の問題になってしまう。「女と鬼は人に見えぬぞよき」と呟きながら世の中を冷ややかに眺める視線は人間の中に確かにあるのであって、それを具体的にどう表現するのかが文学の課題ということになります。
『ふうらり、ゆれる』の古羊さんは本当にごく普通の女性であり、なんの謎もない女性として描かれているのですが、読んでいて多くの人がちょっと怖いと感じるのではないでしょうか。その怖さは社会的なものではなく、もっと根源的なものだと思います。日本の古典文学に繋がるような深層的な怖さです。
■ 片島麦子 連載小説『ふうらり、ゆれる』(第08回)縦書版 ■
■ 片島麦子 連載小説『ふうらり、ゆれる』(第08回)横書版 ■
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