連載翻訳小説 e.e.カミングス著/星隆弘訳『伽藍』(第33回)をアップしましたぁ。『第五章 大部屋の面々』です。
地獄の沙汰も金次第と申しますが、カミングスさんが羽振りがいいとわかると、監督官(スルヴェイアン)がちょっとしたチップをねだるようになりました。この偏屈なアメリカ人は、当然そんな袖の下は渡しません。誇り高い人なのであります。
カミングスが描く『大部屋の面々』は多種多様。人種も違えば話す言語も異なる。カミングスさんが入れられたのは政治犯用の収容所ですから、脱走者もいたようです。「目つきが剃刀のように鋭」い床屋とロシア人が脱走したとありますから、きっと当時のコミュニストなんでしょうね。第一次世界大戦は19世紀的世界秩序が崩れ去ったことで生じた戦争で、コミュニズムも広く社会に広まっていました。一次大戦から二次大戦にかけて、共産主義に興味を持たなかった知識人はほぼ皆無だと言っていいと思います。
ただイズムはいずれ消え去ります。ベトナムは今国名に社会主義が付いていますが完全に資本主義化していますね。ベトナム戦争は反共のための戦争だったんですが、それが大義名分に過ぎないことが露わになっています。ベトナム人にとってベトナム戦争は、フランス、ついでアメリカを母国から追い出すための戦争でした。中国共産党やイラン革命についても同じことが言えます。一昔前の用語を使えば、資本主義帝国主義国家の支配を排除する際に、同じ資本主義を標榜するのが難しい時代があったわけです。
そんな〝イズム〟を描いた文学作品は、イズムの力が消え去ると途端に魅力を失います。カミングスさんの『伽藍』が魅力を保っているのは、それがイズムとは無縁だからです。テーマは天路歴程、あるいはダンテ的地獄でしょうね。
■ e.e.カミングス著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』『第五章 大部屋の面々』(第33回)縦書版 ■
■ e.e.カミングス著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』『第五章 大部屋の面々』(第33回)横書版 ■
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