小松剛生さんの連載ショートショート小説『僕が詩人になれない108の理由あるいは僕が東京ヤクルトスワローズファンになったわけ』『NO.044 それはまるで旧式オーブントースターのような/メキシコで釣りをする老人について/イマジン・オール・ザ・イグアナ』をアップしましたぁ。小松さんも含めて文学金魚から単行本デビュー予定の作家が何人かいらっしゃいます。ふんぢゃ小説家デビューってどういうことなのか、今一度まとめておきませう。
基本、新人作家の考えることはだいたい同じです。まず ① なんらかの形で新人賞を受賞して作家としての足がかりを作る。次に ② 単行本の刊行を目指す。本が数冊出たら ③ 文壇で有名な賞を受賞したいと望む。だいたいこのあたりまで新人作家の思考は共通です。
①と②は自力で扉をこじ開けるしかありません。で、③ あたりからプロ作家の目鼻がついてくるわけですが、なぜ文壇有名賞が欲しいのでしょうか。文筆業で食べてゆけるようになるためですね。これも新人作家はほぼ同じですが、最初は会社勤めなどして他人のために働くのがイヤだから自由な文筆業に憧れる。大学卒業前に小説家デビューして、新人賞と芥川賞などの同時受賞が最もあらまほし、といふことになります(笑)。ただほとんどの芥川賞作家は文筆で食べていません。
文学賞には優れた作品を顕彰するほかに賞の受賞で話題を作り、著者が仕事をしやすくなり、出版社は本の売り上げで潤うという現世的役割があります。映画や音楽業界の賞と同じです。また政府補助金以外の文学賞は、出資元(たいていは出版社)の事情で受賞が左右されるのは当たり前です。ストレートに言えば自社出版の本がそこはかとなく優遇されます。政府系の賞でも同じですが、誰もが納得する公正な賞など存在しないのです。人脈で動くことはザラにあります。さらに最近では賞の良き循環が失われ始めています。詩の世界で賞を受賞しても売上はさほど期待できない。小説の世界でも好循環を生む賞はどんどん少なくなっています。もちろん本を出すたびに一般社会の注目を浴びる賞を受賞する作家は、当たり前ですがいません。
つまり作家は結局のところ、コンスタントに売れる本を書かなければ文筆業という夢を実現できない。そして売れる本を書くということはイヤになるほど原稿を書くことを意味します。何冊も書いてそのうち数冊が比較的売れる。あるいは出版した本のマッスである程度の印税等が確保される。それがわかると必然的に真剣に読者や版元の事情を考えるようになる。要は作家は個人事業主です。小さな会社を経営しているような社会性が身につく。文筆業は自由業で好き勝手できるという幻想は吹き飛びます。サラリーマンよりドロドロになって働くのが当たり前になります。そこまで来れば一応はプロの作家です。本気である仕事に就きたいと考えているのなら、漠然と夢見ているのではなく、自分の未来を先の先まで考えなければなりません。近頃はアイドルだってそのくらいのパースペクティブは持っています(笑)。
当たり前ですが世の中どこまでいっても競争であり、生きている限り生存競争は続きます。文学の世界はぜんぜん甘くない。確かに自営業で多少は好き勝手できると思いますが、その分、組織に守られている人より間違いなく厳しい。作家になるには覚悟が必要です。最も強い牽引力は、書かないと生きている気がしないという作家の切迫感でしょうね。そういった精神と肉体が直結した書く欲望が希薄で、単に有名になりたい等々なら、どこかで文学者になる夢は諦める方がいい。もちろん書きたいという強い切迫感を持った必死の作家であれば、文学金魚は応援します。
■ 第06回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第06回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
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