ラモーナ・ツァラヌさんの連載エセー『交差する物語』『No.019 懐かしい影に魅せられて』をアップしましたぁ。J・R・R トールキンの『指輪物語』から始めて、ラモーナさんが能に魅せられた理由を書いておられます。「(トールキンの)中つ国とグリム童話の世界はどうやら同じ規則に従って動いているようで、「薄暗さ」という共通点がある。深い森に入った時に目にするあの薄暗さである。幽かな光の中で神秘的なものを感じるのだが、少し怖い感じもする。そこで息をしているだろう精霊、妖精たちや幽霊などは人間の精神の中にある謎を物語っている。このようなモノたちは、光と闇の間の境界線がはっきりしている世界の住人ではない。彼らは薄暗い世界の中にしか存在しえない」と書いておられます。
ヨーロッパの中心は地勢学的にもフランスとドイツであります。フランスはイタリアに近くラテン的な明るさがありますが、スペインになるとイスラームの影響が色濃く出てきます。ドイツはというと、観念の王国ですね。ドイツが数々の哲学者を輩出したことは言うまでもありません。そこから東欧、ロシアの方に行くと、ちょいと神秘主義的な色合いが濃くなるやうです。乱暴な区分けですが、日本の能が東欧でけっこう人気があるのは、ラモーナさんが書いておられるような神秘主義的な森の香りがするからでしょうね。ただ日本では森というと険しい山の印象で、グリムなどを読んでいると、もちろん起伏はありますが、比較的なだからな土地に森林が見渡す限り続いているという違いがありますけんど。
外国人が能を初めて見た時の印象は様々なようです。「あんな退屈な舞台、二度と見たくない」とおっしゃった高名な芸術家もたくさんおられます。マルセル・デュシャン大先生は来日した時に能を見に行ったのですが、「能なんてしらねーぞー」と言いながら、隣のティニー夫人に能の説明をされていたそうです。デュシャン大先生らしひ逸話ですな(爆)。
ただラモーナさんが書いておられるように、「能楽の表現に馴れていない者はみんな同じような感覚を抱いたことがあると思うが・・・最初は多分もう少し透明で物質性のない舞台を期待しているだろう。だから想像力を働かせないと、しばらくは舞台上で何が起こっているかぴんと来ない。しかし能面の強い存在感といい、役者の動きの格好良さといい、能の本当の魅力を感じさせてくれるものに少しずつ気づくようになる」のは日本人も外国人も同じでしょうな。一生日本文化の魅力にに気づかない日本人もいますし、日本人よりもそれを理解している外国人の方もいらっしゃるのでありますぅ。
■ ラモーナ・ツァラヌ 連載エセー 『交差する物語』『No.019 懐かしい影に魅せられて』 ■