山田隆道さんの新連載小説『家を看取る日』(第02回)をアップしましたぁ。私小説的純文学のタッチではないのですが、山田さんの小説には作者が積み重ねてきた人生経験や思想がうまく表現されています。感覚的に言うと分裂しながら総体としてまとまっているといふか、太い根が絡まり合って木が天に向かって伸びているやうな感じです。『家を看取る日』は家族(家系)をテーマにした作品ですが、従来の日本文学とはまた違う、忍び寄るような暗さを含めた家の根の深さを感じさせます。でもさすがサービス精神の旺盛の作家で、不肖・石川はお母さんの運転シーンで爆笑してしまひました。
その軽自動車は後方のタクシーから「どかんかい、おらぁ!」と言わんばかりに煽られているものの、一向に動こうとしなかった。よほど図太い神経の持ち主なのだろう。ハザードランプも点けずに、タクシーの営業を妨害している。
よく見ると、ドライバーは母だった。思わず天を仰ぐ。(中略)
窓越しの母は呑気に文庫本を読んでいた。さすがだ。おそらく、このクラクションに動じていないのではなく、そもそも気づいてすらいないのだろう。母はなにかに集中すると途端に五感の機能が鈍くなるのか、周りのことが頭に入らなくなる。神経が図太いのではない、神経が一箇所に偏りやすいのだ。
文学金魚では山田さんの『家を看取る日』、小原眞紀子さんの『はいから平家』、大野露井さんの『故郷-エル・ポアル-』と期せずして作家の故郷を扱った作品を三本連載しています。故郷・家族モノといっても、いずれも親兄弟との心理的確執を描いた作品ではありません。面といふか、空間的に故郷・家族を捉えているやうな気配があります。現代は社会(世界)全体を貫くような思想・観念的ヴィジョンがなかなか掴みにくい時代ですが、そういう状況では最もファンダメンタルなものを問い直す姿勢も必要です。文学金魚連載の三本の小説は、小説文学の近未来的ヴィジョンを示唆しているのかもしれません。
■ 山田隆道 新連載小説 『家を看取る日』(第02回) pdf版 ■
■ 山田隆道 新連載小説 『家を看取る日』(第02回) テキスト版 ■