小原眞紀子さんの『BOOKレビュー 小説』『No.001 『虎がにじんだ夕暮れ』 山田隆道著』をアップしましたぁ。山田隆道さんは小説家、エッセイイスト、放送作家、ラジオのパーソナリティーで熱狂的阪神タイガースファンと、マルチな才能をお持ちの方です。つい先日、文学金魚で書き下ろし小説『家を看取る日』の連載が始まりました。小原さんは山田さんの小説『虎がにじんだ夕暮れ』を取り上げておられます。
『虎がにじんだ夕暮れ』は山田さんの故郷・大阪の家族の物語なのですが、小原さんは「県民性とは個々人の性格であり、・・・それを根源的に育んだものは家族の関係性、つまりは家族への愛憎と執着、そして最終的な肯定感であるに相違ない。・・・大阪カルチャーの特異性、阪神タイガースファン文化というものもまた、すべて個のあり様へと還元され、それを見極めようとするなら、それらの個を醸成した家族のあり様を真摯に、しかしプレーンに見つめる他はない」と書いておられます。ホームタウン小説の基盤的認識ですね。
その上で小原さんは、「この作品は、いわゆる家族小説とも違う。・・・共同体の文化とは本来的に家族の延長線上にあるものだということを裏返して見せている。家庭という場と同様に、そこで人が産まれ、出来上がって、死んでゆくのだ。そこにいるのは、だから単なるハートウォーミングな家族で、ストーリーはその関係性を追う、という代物ではない。みっともない姿を晒しながらも出来上がってゆこうと悪戦苦闘する主人公の成長物語でもなく、あくまでも若い彼の過剰な〝生〟とパワフルな生命感を消費しつつ〝死〟に向かうじいちゃんが対峙する。家族は、大阪文化は、その生死の揺籠である」と批評しておられます。
ホームタウンモノ、家族モノの小説はまず特異でなければ読ませるに値しませんが、その特異さを通り越したところに普遍性が見えてこなければ優れた小説にはならないものです。山田さんの『虎がにじんだ夕暮れ』は、小原さんが指摘しているように〝生死の揺籠〟としての大阪の家族・文化を鮮やかに描いた秀作だと思います。
■ 小原眞紀子 『BOOKレビュー 小説』『No.001 『虎がにじんだ夕暮れ』 山田隆道著』 ■