田山了一さんのTVドラマ批評『No.058 アオイホノオ』をアップしましたぁ。原作は島本和彦さんの学園青春マンガです。フィクションですが、大阪芸術大学時代の、マンガ家デビューする前の島本さん自身がモデルです。ドラマでは主人公の焔モユルを柳楽優弥さんが、ヒロインの森永とんこを山本美月さんが演じておられます。田山さんは柳楽さんについて、『愛くるしいと同時にアツクルシイほどの瞳で、プロ漫画家を目指す焔モユルにぴったりである。金曜とはいえ、深夜枠でのこの重量級のキャスティング、またしてもテレビ東京のクリーンヒットだ。本人はコメディ初主演で、さらに才能を伸ばすには絶好の機会でもあるだろう』と書いておられます。不肖・石川も同感であります。
島本さんのマンガ(ドラマでも同じです)には実在の人物がたくさん登場します。田山さんの批評を引用すれば、『同級生、庵野ヒデアキに圧倒され、それが後にあの「新世紀エヴァンゲリオン」を作ることになる彼なのだが、同じ業界を目指す連中が集まる大学の学部では、こういう具合に、互いに一生視野に入ってくるような腐れ縁が生じるものだ』という感じです。庵野秀明さんのほかにも株式会社ガイナックス代表取締役社長・山賀博之さん、イラストレータ兼プロデューサーの赤井孝美さん、評論家・岡田斗司夫さんなど、後年サブカルチャーの世界で名を成す人たちが学生時代の島本さんの周囲にいたことがわかります。
不思議なことですが、ある世代から作家が出るときには、まとまって出る傾向があります。一人か二人優秀な人間がいると、その人のレベルにまで周囲の人間の能力が引き上げられるということがあるのだと思います。もちろん学生時代に優秀だった人間が、そのまま優秀であり続けるのは難しい。しかし若い学生時代くらいに、うんと高いレベルを見据えていないと、曖昧ですが厳然として存在する創作者の初歩レベルにも達しないのは確かなやうです。『アオイホノオ』の青年たちは、ほとんど滑稽なくらい高望みの人たちでありまふ(爆)。
またギャグとして描かれていますが、島本さんはマンガ編集者から容赦ないダメ出しを食らいます。主人公・焔モユルは編集者の言葉をほとんど神の御宣告のように捉え、それについて考え詰めるのですね(爆)。その是非は人によって異なりますが、ある程度は絶対に必要なことです。聞く耳を持たない人には、編集者でなくても誰も親身なアドバイスなどしません。また焔モユルはなんやかんやいって多作です。一作優れた作品を書けば認められるだろうと考えている創作者は多いですが、それは完全な間違いです。
作品が優れているかどうかは他者が決めることです。また結果が出るまでには時間がかかる。それをのんびり待っていたい人は、趣味だと割り切ってものを書いた方がいい。とにかく書きたい人間が書き続けているうちに、半年、一年前に書いて発表した作品が、遅ればせに少しだけ評価されるというのが普通です。北村透谷でも石川啄木、梶井基次郎、中島敦でもいいですが、若くして亡くなった作家の全集を読めばそれがわかるはずです。彼らはひっきりなしに書いている。傑作と呼ばれる作品は、彼らの全著作のほんの一握りであり、彼らはそれが傑作であるかどうかを気にすることなく次の作品を書き続けたわけです。創作者にとっては、〝今書いている作品が一番の傑作のはず〟なのです。
■ 田山了一 TVドラマ批評『No.058 アオイホノオ』 ■