アオイホノオ
テレビ東京
土曜0:12~(金曜深夜)
漫画家、島本和彦が自らのデビュー、青春時代をモデルにしたマンガの実写ドラマ化である。大阪芸術大学を舞台に、実在の著名人とおぼしき人物が次々に登場し、興味を惹く。そのあたりのところを公式サイトで、岡田斗司夫が解説しているという。
注目すべきは、主人公の焔モユルを柳楽優弥が演じている。カンヌで最年少の主演男優賞を獲得した少年、柳楽優弥を思い起こせば、確かに当時からちょっと、愛くるしいと同時にアツクルシイほどの瞳で、プロ漫画家を目指す焔モユルにぴったりである。金曜とはいえ、深夜枠でのこの重量級のキャスティング、またしてもテレビ東京のクリーンヒットだ。本人はコメディ初主演で、さらに才能を伸ばすには絶好の機会でもあるだろう。
同級生、庵野ヒデアキに圧倒され、それが後にあの「新世紀エヴァンゲリオン」を作ることになる彼なのだが、同じ業界を目指す連中が集まる大学の学部では、こういう具合に、互いに一生視野に入ってくるような腐れ縁が生じるものだ。そのようにして彼我を見比べ、自分の本質や方向性を見極めていくものだが、そのときは単なる勝ち負けとして捉えるから、青春の苦い思い出ということになるのかもしれない。
実際、島本和彦ほどエヴァンゲリオン的な大きな構えが似つかわしくない作家もめずらしい。そういう構えをそっくり真似て、その気になっているギャグとか、そういうものを前にして一人で勝手に燃え上がっている純な心情、それこそが島本和彦の本領である。
たとえば島本和彦の出世作、『炎の転校生』は、主人公はボクシングの果し合いをする。相手がこれまで一日20回のスパークリングをやってきた、と誇ると、なにを自分はこれから100回やるのだ、と高らかに宣言し、その瞬間にすでに「勝った」と思う。相手もなぜか「負けた」と思うのだが、それはなんでかよくわからない。
あるいは学校正門前で日直と対決する。「先生が言ったから」とつい口走ってしまった主人公に、「先生が言えば、何でも言う通りにするのか。泥棒しろと言われたらするのか。松本伊代と結婚しろといわれたらするのか」と日直は言い募り、追い詰められた瞬間、「する。松本伊代と結婚しろと言われたらするぞ」と切り返し、形勢は一気に逆転する。
これはギャグ漫画なのだろうか。十分可笑しいという意味では、まさしくそうである。しかも笑えるばかりか、やたらサワヤカなのである。一見するとあだち充ばりのストーリー漫画、青春ものだ。主人公はフツーの男の子で、ようするにフツーの男の子というのはそれだけで十分可笑しい存在なのだ。
意味不明な思い込みの強さ、ほんの一言で崩壊する自我といったものが、フツーの男の子を非現実的な認識へ追いやる。それは従来は純文学で表現されてきたものだ。その様子が可笑しい、という距離感と、言語的な透明感が島本和彦をギャグ漫画の世界に留めている。
田山了一
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■