ラモーナ・ツァラヌさんの『青い目で観る日本伝統芸能』『No.012 鏡に見える闇の恐ろしさ―歌舞伎『恐怖時代』』をアップしましたぁ。谷崎潤一郎原作で、武智鉄二演出の『恐怖時代』を取り上げておられます。『恐怖時代』は大正5年(1916年)発表の戯曲で、大正10年(21年)に新劇として上演されました。それを武智鉄二が昭和二十六年(一九五一年)に歌舞伎として上演しました。今回の歌舞伎座での公演は実に33年ぶりの再演だそうです。八月納涼歌舞伎は明後日27日までです。見に行かれるならまだ間に合いますよー。
『恐怖時代』はそのタイトルの通り、怖ひといふか、むちゃむちゃな内容であります。あるお大名の側室が、家老との間にできた子をお世継ぎにするために、妊娠中の正室の毒殺を計画します。でもその側室の本命愛人は、実は剣の達人の若侍で、若侍は若侍で年増の女中とできていて・・・といった展開です。ほんで最後は謀略がバレて、皆殺しの血みどろ惨劇になるのでありまふ。主要登場人物たちはサディストでマゾヒストでもあり、殺すのも殺されるのも大好きといった感じです。谷崎大先生、ときどきこういうむちゃな作品を書いておられますね。戯曲だとなおさら大先生の素が出るやうであります(爆)。
ただ全体としてはスピーディな歌舞伎作品ではないやうです。ラモーナさんは、『『恐怖時代』を観た観客は、もう少し前半の長い会話劇に、面白味を加える工夫が出来たのではないかと感じるだろう。・・・このように考え始めた観客は、突然気付くはずである。自分たちもまた・・・「面白いもの」を求めている。それは・・・互いを殺し合うことである。つまり・・・この作品は、決して狂気に駆られて殺し合いを求める采女正を責めているわけではない。登場人物たちの殺し合いを「面白い」と思ってしまう観客のことを指しているのである。・・・観客は、本当に恐ろしいものは自分の心の中に潜んでいたと気付く。・・・それが武智歌舞伎の素晴らしさであり、谷崎戯曲に宿る演劇的可能性だと思う』と批評しておられます。
谷崎先生が、最初からネタバレ的な『恐怖時代』といふタイトルを付けていることから、この作品の主題は表面的な殺し合いにはないでしょうね。ほんとうは何が一番恐いのかといふ主題が、殺し合い表現の奥にこめられているはずです。ラモーナさんの読解は、それに対する一つの的確な答えだと思いますですぅ。
■ ラモーナ・ツァラヌ 『青い目で観る日本伝統芸能』『No.012 鏡に見える闇の恐ろしさ―歌舞伎『恐怖時代』』 ■