鶴山裕司 美術展時評 No. 142『北川民次展』をアップしましたぁ。北川民次は大正時代にアメリカからメキシコに渡ってメキシコで画風を確立し、太平洋戦争中に日本に戻り、以後、愛知県瀬戸市を拠点に画業を続けた画家です。大画家ではないですが美術史上で重要な画家です。
鶴山さんの興味は池袋モンパルナスにあるようです。池袋モンパルナスは池袋周辺にあった芸術家村です。このあたりは戦前は低湿地帯だったので賃料が安く、また上野の東京美術学校(現・東京藝大)に近かったことなどもあって、アトリエ付き貸し住居がたくさん建てられました。小熊秀雄、寺田政明、靉光、麻生三郎、古沢岩美、熊谷守一、長谷川利行らが住みました。日本美術史でも珍しい芸術家村です。
また池袋モンパルナスは庶民の子弟が初めて画家を目指すことができるようになった時代の芸術家村です。加えて太平洋戦争という動乱に巻き込まれました。召集された画家も多く靉光は戦死しています。さらに大正時代には世界的なダダイズム、シュルレアリスムブームが起こりました。本場フランスのそれは社会変革運動でもあり、瀧口修造、福沢一郎が治安維持法違反の嫌疑で一時拘束されています。
鶴山さんは「池袋モンパルナスはそれまでの洋画の歴史の歪みを集約したような芸術家村で芸術家集団だった。戦後の洋画の礎となった重要な拠点である」と書いておられます。著書に夏目漱石論、正岡子規論があるように、彼の興味は日本近・現代史の最も重要な時代である明治維新と戦中・戦後直後に集中しています。その総括を目指しておられることは池上晴之さんとの対話『日本の詩の原理』でもわかります。明治維新と戦中・戦後は未だ十全に総括されていません。その総括は21世紀文学(芸術)のために絶対的に必要です。
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