松原和音さんの連載小説『一月のレモネード』第5回をアップしましたぁ。『一月のレモネード』はメタモルフォーゼの小説でもありますね。
試着室で着替える前に、Beforeの写真を撮った。殻を脱ぎ捨てて別人になろうとしている私。送信して見せられるように、顔はスマホで隠して撮影した。狭い空間での着替えは不便だったけど、見事にラッパー風になることができた。普段着ていた服と一緒に、自分まるごと着替えられたような気分になった。記念に、Afterもスマホに収める。レジでお金を払い、外に出る。サングラスとニットの帽子のおかげで他人のように振る舞うことができた。バッグは今着ているものに合わなかったので、もともと着ていた服と一緒にショップの袋に入れた。ダボダボの服は息がしやすかった。原宿では個性的な服装をしている人なんていくらでもいるから、ジロジロ見る人はいなかった。この服装はいまの自分の気分を反映していて、心は乱れるどころか落ち着いていた。しっくりくる、と言えるかもしれない。小学生くらいの子供が「YO !」と言ってポーズをとったので、私も同じようにしてあげた。
松原和音『一月のレモネード』
主人公のミクは原宿のショップでラッパーの格好に変身するわけですが、彼女はサークル内ではグルドというあだ名で呼ばれてもいます。また高校三年生でこれから大学進学も控えている。変化の年齢なんですね。
この変化を等身大であるにも関わらず、相対化して眺めるのが小説という表現です。変化は楽しいばかりではなく残酷で醜い場合すらあります。まあどんな場合でも小説では圧をかける瞬間が必要です。いわゆる小説のクライマックスであり、そこでは抉る必要が生じます。この抉る力、圧のかけ方が事件と結びつけば、小説に迫力が加わる可能性が増すわけです。
■ 松原和音 連載小説『一月のレモネード』第5回 縦書版 ■
■ 松原和音 連載小説『一月のレモネード』第5回 横書版 ■
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