萩野篤人 文芸誌批評 萩野篤人 文芸誌批評 No.009 鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」(小説トリッパー2024年秋号)、連載小説『春の墓標』(第14回)、連載評論『モーツァルトの〈声〉、裏声で応えた小林秀雄』(第03回)をアップしましたぁ。
鈴木結生さんの「ゲーテはすべてを言った」は芥川賞受賞作です。萩野さんが書いておられるように「衒学的(ペダントリック)」な小説です。ただそれだけでは優れた小説にならないんじゃないかなぁ。萩野さんは「鈴木さんという人は映画だけでなく、きっと心から文学が好きなんでしょうね。心から好きだというのがにじみ出ている。そこには好感が持てます。(中略)けれどこの手の作品に、ことばの遊戯よりも高い水準を求めるなら、テクスト自体がおのずから批評性をまとっていなくてはなりません」と批評しておられます。このタイプの小説は、いったん勘所を押さえれば比較的書きやすい。だけど切迫感に欠ける。ペダンティズムを追究するなら狂気にまで至らなければ読者の心を揺さぶれないでしょうねぇ。
『春の墓標』は深刻で悲惨で滑稽な小説です。主人公は父親の介護のために仕事を辞めたので「短くてあと一年、もって二年で金策は尽きる。この家と土地を処分し、売った金で父親を施設へ入れるかたわら、自活できるよう職を探さなくては。いつまでも生きられたって困る」。その一方で「あなたはしまいまで生き切ればいい。誰にどう思われようとただ生き切ればいいんだ」とも思う。もちろん私小説だから優れた小説になるとは限りません。だけど観念的ペダンティズム小説であれ実生活に根ざした私小説であれ、肉体的軋みや悲鳴が観念にまで昇華されない小説は読者の心に届かないと思うのです。萩野さんの評論『モーツァルトの〈声〉、裏声で応えた小林秀雄』も肉体的モーツアルト論です。
■萩野篤人 文芸誌批評 萩野篤人 文芸誌批評 No.009 鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」(小説トリッパー2024年秋号)■
■萩野篤人 連載評論『モーツァルトの〈声〉、裏声で応えた小林秀雄』(第03回)縦書版■
■萩野篤人 連載評論『モーツァルトの〈声〉、裏声で応えた小林秀雄』(第03回)横書版■
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