片島麦子さんの連載小説『ふうらり、ゆれる』(第13回)をアップしましたぁ。古羊さんと慧君の章の続きです。小説という表現ジャンルは「小さな説」と読み下すこともできるわけで、作家の世界に対する様々な思想や感情を表現できる形態です。ただなぜ物語なのかということを考えなければなりません。思想・感情を直接的に表現したいのなら評論の方が相応しい器です。また稲妻のような断言を表現したいのなら詩の方が相応しい。作家の思想・感情の表現の器でありながら、絶対に物語でなくてはならないのが小説というジャンルの掟です。
「そう云えば、慧」
ボールペンを握った右手を顎にあて、古羊さんは顔を上げる。
「何、唄子おばさん」
ふり返って慧が訊き返す。
「なんで家に来たの?」
慧は一瞬梅干しを食べたような顔をした。そして顔を戻すと、しばらく考えてから答えた。
「道に、迷ったんだ」
古羊さんは「ふうん」と頷いた。
(片島麦子『ふうらり、ゆれる』)
小説の書き方の教科書本があるとすれば、この箇所はお手本として収録したいですね。小説の場合、決定的な何事かは「そう云えば」といった形で表現されることが多い。ここがポイントですよと明示するのは評論のやり方で、小説の場合は読者の心にスリップするような方法を採ります。なぜなら小説が扱うのは決して現世では解決不可能な問題の、物語的な昇華による解決あるいは達観だからです。それは非常に脆いものでありながら強い。なぜなら物語がそこしかないという流れを作るからです。片島さん、テクニシャンです。
■ 片島麦子 連載小説『ふうらり、ゆれる』(第13回)縦書版 ■
■ 片島麦子 連載小説『ふうらり、ゆれる』(第13回)横書版 ■
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