連載翻訳小説 e.e. カミングス著/星隆弘訳『伽藍』(第35回)をアップしましたぁ。『第五章 大部屋の面々』です。アメリカ文学は世界で一番わかりやすくて一番わかりにくい文学です。初めてアメリカ文学を読んだ人はその殺伐さに驚くでしょうね。日本人の感覚はどちらかというとフランスやドイツなどに近い。ウエットな抒情が表現されてないと、どーもピンとこないんですね。
しかし理屈っぽくて観念過多のフランスやドイツ文学を飽きるほど読むと、アメリカ文学の良さが分かってきます。殺伐として乱暴ですがアメリカ文学は正直なのです。現実にとても近いと言っていい。今回の連載で言えば、カミングスさんと同房になった下町ロンドンっ子のガリバルディの俗謡ですね。
こぉん夜ゆめぇの国であぁいましょう
ぎぃん色に輝くつきぃのしたぁあ
ゆめぇの国で逢いましょう
甘美な夢見るゆめぇの国で
ぼくのゆめぇはみな叶うぅ
あっけらかんと夢と希望だけを歌っています。ヨーロッパ詩なら俗謡でもペーソスが入り込むはずです。しかしアメリカには白と黒しかない。民主党と共和党しかない。日本人は世の中を最初から灰色と捉えがちですが、アメリカは白と黒の二分法で捉える。それでも割り切れない部分が灰色として認識される。
この考え方は、アメリカの古いブルースやフォーク・ソングなどにはっきり表現されています。白黒二分法だから灰色の闇が深くなる。日本では漱石や西脇順三郎といった小説や詩の先駆者が英米文学者でした。カミングスを含むアメリカのモダニストたちも、ヨーロッパ文学を学んだ上でアメリカ独自の文学を作り上げています。
最初から灰色の思考法はそれはそれで面白いのですが、論理的な修辞に淫しやすい面があります。しかしアメリカ文学は違います。現実世界の問題を列挙して批判しまくり「こうした方がいい」、あるいは「どうしていいかわからない」とはっきり書きます。肯定も否定も思想の留保も、実に力強いのです。
■ e.e.カミングス著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』『第五章 大部屋の面々』(第35回)縦書版 ■
■ e.e.カミングス著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』『第五章 大部屋の面々』(第35回)横書版 ■
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