連載翻訳小説 e.e.カミングズ著/星隆弘訳『伽藍』(第26回)をアップしましたぁ。『第四章 新入り』の続きです。軍隊の、しかも軍事裁判を待つような軍人の収容所ですから規律が厳しいのは当然ですが、カミングズさん、楽しんでますね。カミングズがフランス嫌いだったはずはなく、むしろ大好きだったはずですが、フランス軍人に対しては手厳しい。
アメリカとロシアは軍事・経済力はもちろん、その国土の広さから言っても世界の二大大国ですが、文化的にはちょいと似ているところがあります。ロシア文学はプーシキン(1799~1837年)から始まります。それ以前にロシアで見るべき文学はほとんどありません。で、百年ほどでドストエフスキーとトルストイを頂点とする文学に発展しました。
アメリカはホイットマン(1819~1892年)が嚆矢だと言っていいでしょうね。すでに『草の葉』に見られた長篇詩への志向は20世紀に入って花開きます。エリオット『荒地』、パウンド『キャントーズ』、ズーコフスキー『A』、オルソン『マクシマス詩篇』がアメリカモダニズム四大長篇詩だと言っていいでしょうね。続く世代もハート・クレイン『橋』、ベリマン『夢の歌』、ギンズバーグ『アメリカの没落』などの長篇詩を書いています。あ、『白鯨』で有名なメルヴィルも晩年に『クラレル』という長篇詩を自費出版しています。
アメリカの長篇詩はヨーロッパ詩とはぜんぜん質が違います。アメリカ長篇詩は桁外れに長い。1万行を超えることもあるわけで、喩を重視していたのでは長く書けません。文明批評等々の現実描写が中心となり、いわゆる詩的な喩はサブ的な用法になります。ヨーロッパ詩を読み慣れた人にとっては殺伐とした詩になるわけで、それが日本でアメリカ詩が今ひとつ読まれない理由の一つになっています。
ただ徹底した現実主義、物質主義に立脚したアメリカ詩には独特の魅力があります。日本の自由詩は基本、ヨーロッパと言ってもフランス象徴主義の影響がいまだに強いですから喩的な詩になりがちですが、世界の本質がつかみにくい時代には喩的表現はどうしても弱くなってしまう。アメリカ詩的な露骨な現実主義を積極的に取り入れてもいい時期でしょうね。
カミングズは長編詩を書きませんでしたが、その逆短い詩をたくさん書きました。このあたりもアメリカらしいですねぇ。極端から極端に揺れ動く。詩が短いので日本の詩の愛好者はカミングズの詩を喩的に読もうとすることが多いわけですが、それはどーかなー。かなり現実的で殺伐とした所のある詩だと思います。そんなカミングズの現実主義が最も端的に表現されている作品が『伽藍』です。
■ e.e.カミングズ著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』『第四章 新入り』(第26回)縦書版 ■
■ e.e.カミングズ著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』『第四章 新入り』(第26回)横書版 ■
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