大篠夏彦さんの文芸誌時評『文芸5誌』『No.098 文學界 2016年04月号』をアップしましたぁ。最果タヒ(さいはて たひ)さんの『十代に共感する奴はみんな嘘つき』を取り上げておられます。最果さんは『グッドモーニング』で中原中也賞を受賞され、第三詩集『死んでしまう系のぼくらに』で現代詩花椿賞を受賞なさいました。詩人として出発されましたが、群像に発表した『スパークした』を始めとして、精力的に小説も書いておられます。
最果タヒ氏は新しい世代の才能をはっきり感じられる数少ない若手作家である。このくらい才能を感じられる作家の作品は久しぶりだ。詩人としてデビューしたが、彼女の場合、詩や小説というジャンルの違いはあまり意味がないだろう。(中略)彼女の中の表現欲求が、時に詩になり小説になるということである。溢れ出るような表現だから成功作もあれば未熟な作品もある。ただ混ぜ物がない内面独白は非常に刺激的だ。作家は言葉数を増やせば増やすほど、それに足をすくわれるのが普通だ。だから抑制する。しかし最果氏の作品にはそれがない。呆れるような饒舌体だ。(中略)
「十代に共感する奴はみんな嘘つき」というタイトルは、大人はわかってくれない的な思春期の少女の心理を描いた小説だということを、必ずしも意味しない。(中略)ステレオタイプな反抗は、やはり嘘混じりだと考えているのだ。最果氏の作品には投げやりな全肯定と執拗で徹底した全否定が多い。しかしいずれにも属さない本当の答えといったものはまだ見えて来ない。勝負はこれからだろう。四十代、五十代になっても、ずっととりあえずの肯定と執拗な否定を繰り返してゆくわけにはいかない。ただ最果氏の作品は、同時代の感受性をしっかりと捉えている。優れた作家である。
(大篠夏彦)
大篠さん、珍しく大絶賛であります(爆)。でも石川も最果タヒさんはいい作家だと思うなぁ。現実状況を鑑みても、本当に才能のある詩人は、詩の世界にいたくてもずっとそこにいることはできないと思います。知的にも商業面でも現状の自由詩壇は絶望的です。作家が希望を持てるジャンルではなくなっている。ただ短歌や俳句を含む詩は日本文学の基層ですから、最果さんのような作家が現れてきたといふことは、文学界全体の変化を示唆しているはずです。
もし文学の世界で作家ドラフトみたいなものがあるなら、石川、最果さんを詩人部門で一位指名すると思います(爆)。作家部門でもいいんですが、作家は現状では加藤秀行さんを一位指名したいかな。従来の文学の文脈にとらわれない〝本当の答え〟を模索する若手作家がじょじょに登場してきています。しょーもない文学制度に足をすくわれずに、十全にその才能を作品として発揮してくださるといいですね。
■ 大篠夏彦 文芸誌時評 『No.098 文學界 2016年04月号』 ■
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