世界(異界)を創造する作家、遠藤徹さんの連載小説『贄の王』(『第02回)をアップしましたぁ。〝世界(異界)を創造する作家〟としたのは、金井純さんが『ファージョン自伝』の批評で、『世界観文学は、世界を創り出すという意味で神話世界に繋がっている。人間意識がなぜ物語を生み出すのか、なぜ人間は物語を必要とするのかという原初にまで作家意識が遡行するからである。またそれは時に、長い年月をかけて作り上げられてきた社会・文化的規範(パラダイム)に揺さぶりをかける』と書いおられるのを読んで、遠藤さんの作品はまさしく世界観文学だなぁと不肖・石川は思ったからであります。
『贄の王』はおどろおどろしい雰囲気ですが、決してホラー小説ではないと思います。もちろん本を〝売る〟ためにはわかりやすい恐怖があった方が良いのですが、遠藤さんの作家的本質はそこにはないだろうと思います(遠藤さんはそういったわかりやすいホラー小説もお書きになれるのですが)。むしろ世界を創る、言葉によって具体的な手触りを持つ異界が立ち上がってくるのが遠藤さんの小説の最大の魅力でしょうね。それは『璽椰鵡』、『嘉果』、『深翳』、『艶媚孔』、『汰枇螺果』などの造語(難字)でも表現されています。普通ならルビを振るようお勧めするのですが、遠藤さんのお考えを確認させていただいた上で、文学金魚ではあえてルビを振っておりません。
遠藤さんは石川の問い合わせメールに、『この系列の小説を書くときはこれらの名前が牽引物となっているのです。異物感のある名前が、異界設定を支え、異形の物語を支えてくれているとぼくは感じています』とご返信くださいました。言葉そのものが作品を牽引する力になっているのです。作家の言葉からもわかるように、『贄の王』は極めて言語的な作品です。また言語から世界の具体的手触りを構成してゆく、密教的世界生成作品でもあります。ただま、気になる読者の方もいらっしゃるでしょうから、いちおう造語(難字)の読みを列挙しておきます。
・璽椰鵡 じやむ
・嘉果 かか
・深翳 みかげ
・艶媚孔 つやこびあな
・汰枇螺果 たびらか
難字といっても、思いのほか素直な読み方であることがわかると思います。これらの言葉には象徴主義的な隠された意味、あるいは秘められた神秘といったものは基本的にないということです。しかし極めて東洋的(日本語的と言った方がいいかもしれませんが)なことに、漢字表記の形象そのものが何事かを喚起しており、それが世界を創り出してゆく発火点になっています。
特に『艶媚孔』、の読みは面白いですね。不肖・石川は『えんびこう』と読んだのですが、遠藤さんの読みは『つやこびあな』だそうです。音読み、訓読みルールで統一されているわけではなく、漢字の読みがフッと意味の方に滑り込むところにも『贄の王』独自の世界観が表現されていると思います。ただし遠藤さんによると、読者が『えんびこう』と読んでもかまわないとのことです。『贄の王』は文字で書かれた作品ですが、視覚と嗅覚、触覚などの感覚を研ぎすましてお楽しみいただければと思います。
■ 遠藤徹 連載小説 『贄の王』(第02回) テキスト版 ■