遠藤徹 連載小説『虚構探偵―『三四郎』殺人事件―』(第38回)をアップしましたぁ。『三四郎』では「迷羊」が一つのキーワードになっていますが、遠藤さんは次のように書いておられます。
「なるほど、認めたくなかった社会的弱者としての自分は、家制度のなかに取り込まれて、ただの妻という存在になり果ててしまったわけだものね。それも、帝国主義を支える政財界の男の妻に。つまり、帝国主義を影から支える存在になり果ててしまった。そういう意味では、肉体のある自分の方が抜け殻なのかもしれないな」
「だから、三四郎は『ただ、口のなかで迷羊(ストレイシープ)、迷羊と繰り返した』のね。「森の女」でいたかったのに、その理想を貫けず、現実に負けて「生身の女」になってしまった美禰子の弱さをなじったってことかしら」
「同時に、自分のことも指しているのかもしれないよ。誰が迷羊なのかを、三四郎ははっきり口にしていないからね。もしかしたらだけど、故郷に戻ったときに、失恋の痛手もあって、母親の勧めるままにお光さんとの縁談を飲んだ可能性だってあるからね。自分自身もまた、理想と現実の間をさまよって、結局現実に破れた迷羊だという意識もあったのかもしれないな」
遠藤徹 連載小説『虚構探偵―『三四郎』殺人事件―』
その通りでしょうね。美禰子ちゃんも三四郎も煮え切らないから『三四郎』という小説は淡い恋愛譚になっている。ただ二人の恋愛感情はまったく直情的ではない。恋愛自体に対する憧れつまり恋愛結婚への憧れ、それを許さない社会システム等がハッキリ設定されている。漱石先生、『三四郎』に続く『それから』『門』でもストレートな男女の恋愛を描きませんでした。どうやら漱石先生は恋愛の『それから』と、それによって必然的に潜らなければならなくなる『門』の方にこそ興味を持っていたようです。
■遠藤徹 連載小説『虚構探偵―『三四郎』殺人事件―』(第38回)縦書版■
■遠藤徹 連載小説『虚構探偵―『三四郎』殺人事件―』(第38回)横書版■
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