第15回金魚屋新人賞発表【佳作】紫雲『陰の影』『性加害者』(小説)、酒井聡『透明のヨルーベ』(小説)をアップしましたぁ。選考結果は辻原登先生の総評の通りですが、石川の感想をちょっと書いておきます。
今回に限りませんが、応募作品は作家自身の過去や体験がモデルになっている私小説が90パーセント近くを占めます。自分のことを書きたい、アピールしたい、あるいは自分の苦しみを小説として書きたいという気持ちはとてもよくわかります。
しかし絶対的前提として〝他人は自分には興味を持っていない〟ということを腹の底まで考える必要があります。その人にとってどんなに苦しいこと、あるいは面白いことであっても、まったく私に関する予備知識のない読者に最後までそれを読ませるのは並大抵のことではありません。そういう最初の作品が書ければ読者が付くことはありますが、0 を 1 にするのはとても大変です。
小説に限りませんが、文学でテクニックが必要不可欠になるのはそのためです。早世された西村賢太さんは私小説作家でしたが、読ませる作家でした。傲慢で鼻持ちならない主人公が登場しますが全部さらけ出しているので滑稽であり、一種のユーモア小説としても読めます。
私のことを書く場合、徹底して私の苦しみや楽しみが、他者からどう見えるのか、どう見えれば面白くなるのかを考えなければなりません。自己をほぼ完全に相対化し客体化する必要がある。また考えるだけでなくそのためのテクニックを磨く必要があります。何度も書いていますが新人賞は通過点です。一作で力尽きたのでは何の意味もありません。書き続けるためにもテクニックが絶対必要です。他者の優れた作品を手書きで書き写してでも、それを盗み身に付ける必要があります。
■第15回金魚屋新人賞発表【佳作】紫雲『陰の影』『性加害者』(小説)、酒井聡『透明のヨルーベ』(小説)■
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