鶴山裕司さんの連載小説『横領』(No.05)をアップしましたぁ。金魚屋から『日本近代文学の言語像Ⅱ 夏目漱石論-現代文学の創出』を好評発売中の鶴山さんの連載小説です。詩人(歌人・俳人を含みます)がよく陥りがちな茫漠とした観念小説ではなく、地上(痴情)の男女が描かれた小説らしい小説です。このあたり、キチンと小説文学の特徴を捉えて書けるのがこの作家の優れたところです。各文学ジャンルの特徴と、越えがたい敷居を把握しているからマルチジャンル作家でいられる。
石川の見るところ、鶴山さんは元々はそんなに器用な作家ではないですね。しかし徹底した原理主義者です。詩なら詩、小説なら小説について徹底して考える。そして原理をつかむと途端に自在になるタイプです。『夏目漱石論』の後記で漱石を読み込んだことで小説が書けるようになったと書いておられますが、本当でしょうね。考えて書くタイプの作家です。
小説家には2つのタイプがあります。一つは徒手空拳でとにかく小説を書き始めるタイプ。もう一つは漱石や鶴山さんのように考え抜いてから小説を書き始めるタイプです。両者とも行き着く場所は同じです。徹底して地上の物語を書きながら、それがわずかに天上に抜けるような観念軸を立てるようになる。ただし前者は肉体的に小説というものを捉えていますが、その構造的特性を把握するのに時間がかかる。後者はその逆に、構造的に小説文学の特徴を捉えているけど、肉体感覚で小説文学に慣れるのに時間がかかります。
いずれにせよ小説は地上の物語です。ある種の〝崇高な人間的愚かさ〟が表現されていないと優れた小説になりません。現代詩の亜流のような実験小説が話題になることもありますが、作品の寿命は短い。一時的な新し味で終わり、すぐに読まれなくなる。解決不能な人間的愚かさの、強引な弁証法的昇華とでも言うべき観念軸が小説を傑作にします。ジャンルの掟は厳然とあるのです。
鶴山さんは詩の世界で「詩は原理的に自由詩である」と言い、根本的なパラダイム転換を図っています。またそれは急速に詩の世界で支持されつつあります。結局は原理を捉えた者の方が正しい。様々な情報が飛び交い、自分の利害を前提としたポジショントークになりやすい時代にこそ原理主義的文学者が必要です。
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