小原眞紀子さんの『BOOKレビュー・小説』辻原登『卍どもえ』―『代表作の誕生』をアップしましたぁ。小原さんによる文学金魚新人賞の選考をお願いしている辻原登先生の新作小説『卍どもえ』書評です。小原さんの書評のタイトルは『代表作の誕生』ですが、辻原先生の代表作の一つになる作品です。
思い切った引用で、オリジナリティの神話を破壊してきた辻原登の振舞いはポストモダンに似てはいても、その発生の根源はごく肉体的なレベルにある。(中略)辻原登にとって、だから作品は必然であり、すべての帰結である。こればかりはポストモダンの作家たちのできることではない。似てはいても出自が異なる。すなわち辻原登は日本語で書く、日本の作家だ。それ自体が〈テーマ〉で、それに尽きる。(後略)
そのようなあり方を、アイデンティティに近いヒントとして提示した作品が2000年に刊行された『遊動亭円木』だろう(第36回谷崎潤一郎賞)。既存の物語を、そのたびに新しい気迫で語り続ける盲目の噺家・円木の姿は、作家にそのまま重なる。作品の完成度もさることながら、本質的な読解の手がかりが得られるという点で、読者としてはこれを〈代表作〉と認識してきた。
実際、噺家・辻原登の作品の中で、目立ちはしないけれど愕然とするほどの冴えた芸を示すものは、ぎりぎりのところで、いや踏みとどまることをも放棄したような際どい「引用」をベースとする短編に多く、そこに最も本質(あえてテーマとは呼ばない)が夾雑物なしに表れている。その際どさはオリジナリティの凡庸を見切り、なおかつ新しく可能な世界を示そうとするもので、本書『卍どもえ』にもその名が登場する前衛詩人・吉岡実の晩年の手法を彷彿とさせる。
(小原眞紀子『代表作の誕生―辻原登『卍どもえ』』)
辻原文学の特徴を端的に指摘した必要十分な書評だと思います。辻原先生はオーソドックスタイプの作家なのですが、その作風はポストモダンです。しかしフランスポストモダンの影響を受けた気配はまったくない。その作家的感性でポストモダンの現代精神を捉え、作品化しています。ポストモダンの先駆的詩人、吉岡実と同じですね。
思想は付け焼き刃では絶対に剥がれてしまう。わけのわかんない現代哲学用語を振り回している文章などを読むと、石川は『80、90歳まで同じことを言っていられるなら信じてあげます』と思ってしまう。辻原先生はハッキリとした小説思想をお持ちです。ポストモダンはサブ要素ですが、なんらかの形でそれを取り込まなければ現代小説は成立しない。小説家として優れているのです。
■ 小原眞紀子『BOOKレビュー・小説』辻原登『卍どもえ』―『代表作の誕生』 ■
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