片島麦子さんの連載小説『ふうらり、ゆれる』(第09回)をアップしましたぁ。第4章は古羊さんの弟、詩音が主人公です。スッと主人公が変わるのですがまったく違和感がない。このあたりが『ふうらり、ゆれる』の単純ですが、非常に大きく重要な特徴です。
他人から意識されることなど詩音には日常茶飯事で、むしろ当たり前であるのだが、その子の場合は意味が違っていた。意識して、詩音は避けられていた。卯喰さんとおぼしき女性は、詩音の姿を認めると露骨にそっぽを向いたり、急に角を曲がったりするのだ。
それだ、と詩音は確信した。
自分が誰かに避けられている、ひょっとしたら嫌われているのかもしれない、という事実に詩音は改めて心を痛めた。それも姉に似た女性に、だなんて。こんなこと、あってはならないことだった。
(片島麦子さん『ふうらり、ゆれる』)
詩音は頭がよく美男子で、すべてにおいてそつのない男として描かれています。ちょっとナルシストですが、他人を傷つけることはない。むしろ自分の魅力を福音のように――特に女性たちに――振りまいている。ほぼ完璧なモテ男なのですね。
その誰からも好かれる詩音が、地味な理系女子の卯喰さんからなんとなく避けられている、もしかして嫌われているのかもしれないと気づく。そして卯喰さんはどことなく卯喰の姉、古羊さんに似ている。古羊さんと亡くなった母親にとって、自慢の、そして大切な弟であるはずなのですが。
こういったところに、『ふうらり、ゆれる』のもう一つの特徴がありますね。好き嫌いといったものは、人間関係ではそう単純なものではありません。そんな二項対立では描けない人間心理の深さ、複雑さがあるから小説といったまだるっこしい言語芸術が必要なのです。『ふうらり、ゆれる』はいわば〝漱石的「則天去私」〟文体で書かれていますが、第4章はその小説的高みをよく示す章です。
■ 片島麦子 連載小説『ふうらり、ゆれる』(第09回)縦書版 ■
■ 片島麦子 連載小説『ふうらり、ゆれる』(第09回)横書版 ■
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