連載翻訳小説 e.e.カミングス著/星隆弘訳『伽藍』(第32回)をアップしましたぁ。『第五章 大部屋の面々』です。
あいつのどこが一番好きかって言うと一家言を表明するのにおそろしく不器用な手を用いたところかな――それをあいつは自身の境遇から立派な前足でもってほじくり出してみせたわけだけどその仕草にときめかないのはフランス政府だけだろうぜ。あいつは、ほら、
自由万歳
という刺青を青と緑の墨で毛むくじゃらの分厚い胸板に彫り込んでいたんだ。たいした熊さんだよ。鼻っ先をひくつかせもしないし餌をおあずけにしても打擲しても未だダンスひとつ仕込めやしない熊……どうも俺は、熊の肩ばかり持っちまう。
こういう箇所を読むと、カミングスは優しいね、と思ってしまいます。権力者、特にプチ権力を振りかざす輩には辛辣ですけど、振る舞いは滑稽でも邪気のない人たちには優しい。カミングスは抒情詩人として知られますが、抒情詩は優しいだけではダメです。世の中の裏の裏まで知りつくしたような冷たい視線が必要です。残酷と紙一重の抒情詩が優れた作品になることが多いのです。
また『伽藍』を読んでいると、〝どこに行っても世界はある〟のがよくわかります。学校でも職場でも収容所のような場所でも人間が作り出す世界はあんまり変わらない。小説の場合は特殊な状況でなければ作品は面白くないわけですが、異様な世界が多くの読者を惹き付けるのかといえばそうでもない。特殊であってもそこに普遍性が垣間見えなければ、作品の魅力が掻き立てられないこともしばしばです。
■ e.e.カミングス著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』『第五章 大部屋の面々』(第32回)縦書版 ■
■ e.e.カミングス著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』『第五章 大部屋の面々』(第32回)横書版 ■
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