連載翻訳小説 e.e.カミングス著/星隆弘訳『伽藍』(第31回)をアップしましたぁ。『第五章 大部屋の面々』です。今回は詩人らしい露骨に詩的な文章ですね。
『僕かい、僕はダンスの先生だ』
それからついでに僕は現時点で「二十の学位(ヴァン・ディプローム)」を持っているんだとさ。オランダ人三人組はあいつのことを忌み嫌っていたけど俺たちはどちらかといえば好きだった――君らだってなんだか出鱈目な見えっ張りでも、どういうわけだか、君らが永遠に暮らすはめになった下水道の明かり取りになってくれていれば好きにもなるだろう。あいつのことで覚えていることは他になにもない、ボクシングの話になると空威張りをしていたことと誰でも彼でも「おっさん(モン・ ビュー)」と呼び捨てていたことくらいかな。あいつが去った日、少し青ざめた顔で手荷物を軽々掴んで出ていっちまうと、なんだか山積みのうんこに飛び回っていた蝶々がいなくなったような気がしたよ。思うにマルビーさんは蝶々採集が趣味だったんじゃないかな――ついには自分自身が採集されちゃったってね。いつか彼を訪ねてみないとな、衛生(サンテ)刑務所かどこぞの療養地で暮らしているだろう、そこで(あんたがラ・フェルテ・マセ送りにした連中の一人ですと自己紹介したうえで)この説の真偽を問い質してやらないと。
(e.e.カミングス著/星隆弘訳『伽藍』)
たぶん、ちょっと精神に異常を来した青年が収容所に連れてこられたんでしょうね。『あいつが去った日、少し青ざめた顔で手荷物を軽々掴んで出ていっちまうと、なんだか山積みのうんこに飛び回っていた蝶々がいなくなったような気がしたよ』という記述はなかなか秀逸です。詩を曖昧模糊とした詩的な表現としか捉えられないエセ詩人には書けない残酷さなわけで、こういう残酷が厳しい本物の詩の美しさに繋がるのです。
■ e.e.カミングス著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』『第五章 大部屋の面々』(第31回)縦書版 ■
■ e.e.カミングス著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』『第五章 大部屋の面々』(第31回)横書版 ■
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