鶴山裕司さんの連載長篇詩『聖遠耳 Sei Onji』No.005をアップしましたぁ。金魚屋から『日本近代文学の言語像Ⅱ 夏目漱石論-現代文学の創出』を好評発売中の、鶴山裕司さんの長篇詩2,187行です。鶴山さんには小説、文芸批評、美術批評、演劇批評等々を書いていただいていますが、自由詩がホームグラウンドの作家です。
夜を好む人がいる
孤独であることを選択した
石切人で絵描きだったクートラス
僕は君の絵を何枚か所有している
君を所有するということは
君を彼として見ないということ
目は自己を見ない
他者と世界を見ている
「世界を見る窓のように目はある」
夜の闇に奇術師たちが蠢いている
ズボンを下ろして尻を突き出し
長い舌を出して嘲笑する
笑いはいつも夜の闇から響く
パリのカフェの麻布製の手拭きを切り取り
それを木枠に嵌めてカンバスにした
見なくても描ける
あるいは少女だった瓜南直子が愛した
銀紙で作られた
葬儀用の蓮の花
彼女が描いた
彼岸を歩く足首たち
足音が描かれている
僕の前に夜の保土ケ谷が
月明かりを天に残し
黒々とした影絵のような木々の輪郭で
どこまでも広がっている
(鶴山裕司『聖遠耳 Sei Onji』)
『聖遠耳 Sei Onji』を読むと、文学がどうやって生まれるのか、ハッキリわかるようなところがあります。鶴山さんは2千行を超える長編詩を耳の手術で入院した9泊10日の間に書いたわけですが、その間、病院のベッドで本を読み、病院近くのコンビニに出かけるくらいしかしていません。つまりすべては彼の内面で起こった。特殊な体験やアイディアがなければいい作品を書けないといのは、幻想だということがよくわかりますね。
文学は結局は作家の内面的な深みです。それを深さとして表現するか、表層的に表現するのかはテクニックの問題に過ぎません。『聖遠耳 Sei Onji』の書き方は軽いですが、フッと深みへ降りてゆく作品です。
■ 鶴山裕司 連載長篇詩『聖遠耳 Sei Onji』(No.005)縦書版 ■
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