小原眞紀子さんの連載エセー『詩人のための投資術』『第十回 オプション―任意追加の友人』をアップしましたぁ。金魚屋から『文学とセクシュアリティ――現代に読む『源氏物語』』を好評発売中の小原さんの経済エッセイです。今回からオプショントレードのお話です。オプショントレードについてはあまりよく知らない方が多いですよね。小原さんは以下のように説明しておられます。
オプショントレーダーは、日経先物と切り離し、あるいは日経先物の方をリスクヘッジとみなして、オプションを売買することで利益を得る。ここで投資は抽象化されて、数学的な思考と確率のゲームになるのだ。何々を作っている何々社の株式、どこそこにある不動産、といった現実的価値とは異なる、オプションというものの価値が独自に変動する。変動の幅は、そのとき日経先物が実際に動いた価格から影響されるもの(本質的価値)、それと限月までの期間(時間的価値)の二つの要素で決まる。オプション価格は、この二つの要素のマトリックスで見てとれるわけだ。
(小原眞紀子『詩人のための投資術』『第十回 オプション―任意追加の友人』)
オプショントレードはオプションそのものを売買するわけです。もち価値が大きく変動するわけですからハイリスクの投資です。株式のようにリアル情報で価値が左右されるだけではありません。市場全体を俯瞰してチャートとかの全体動向を読み取り予測しなければなりません。数学を学んだ小原さんには知的好奇心を掻き立てる投資システムのようです。
最近はあまり書かなくなりましたが、作家にとっても経済観念は必要です。作家に限りませんが、創作者という人種が浮世離れてしているのは事実です。大人になってまで絵を描き詩や小説に熱中しているわけですからね(笑)。石川の時代には大学時代に文学に夢中でも、就職と同時にキッパリ創作を止める人が多かった。要するに文学では食えないからです。それでも文学を愛する人たちが創作活動を続けた。大学卒業が一つの敷居であったわけです。
現在(現代)では本がホントに売れなくなり、作家活動はますます苦しくなっています。大半の詩人がそうですが、自費出版で本を出すことはもちろんできます。ただ出す本の数は限られるわけで、かつ年を取れば取るほど情熱が失せてゆくことが多い。経済的裏付けのない活動を続けるのはキツイからです。どこかで最低限の採算を取れるようになるのが、創作活動を安定して続けるための次の敷居になります。
ただま、お金の問題ならお金で解決してしまえというスタンスもある。ほかで稼いで文学に注ぎ込むのもアリですね。いわば小劇場システムでしょうか。小劇場ではアルバイトなどで稼ぎ公演を打つことがごく普通に行われています。生活費は自分で稼いでも、舞台の費用は入場料収入でまかなっている劇団は多いです。作家の場合、出版費用さえ回収できれば自転車操業で本を出してゆけますね(笑)。
あんまり夢のないことを書いていますが、夢を見ることとそれを実現する現実システムがリンクしているのが理想です。小原さんの場合、投資に対する興味が明らかに詩や小説に反映されています。製造業はわたしたちの社会の普遍的基盤ですが、現代では仮想通貨などに代表されるサイバー空間での投資や収益システムがますます大きなシェアを占めつつあります。現代社会を捉えるためにそれらの実態を知ることはとても重要です。また、だから小原さんのエッセイのタイトルは『詩人のための投資術』なわけです。詩人は先を読む。先を読む前衛でなければ文学の世界における詩人の役割は半減するということです。
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