遠藤徹さんの連載小説『ムネモシュネの地図』『第20回 (七)象の胸(コピ・ルアク)(後編)』をアップしましたぁ。種山先生とさやかクンは徐々に事件の核心に迫ってゆくわけですが、それが事件の核心なのかどーかといふところが、『ムネモシュネの地図』の面白いところです。
この小説、種山先生のウンチクを中心にまったりと進んで行きますね。それが小説を貫く基調低音としてのトーンです。このトーンを崩すと小説は全体としてアンバランスになってしまいます。かといって結末に向けてスリルが増していかないと、小説としては面白くない。
小説を書き慣れていないと、登場人物や状況を設定しているのに結末のツメが甘かったり、ツメは設定してあるのにそこに至る細部がスカスカだったりすることがよくあります。もちろんどちらが欠けても優れた小説にはなりません。小説の文学性うんぬんの前に、パッケージとしての作品完成度が低いからです。
小説の文学的価値は最終的に作家思想の強度や独自性によって決まるものですが、まずパッケージとして一定レベル以上の完成度に達している必要があります。この完成度に関しては、純文学作品よりも大衆文学をたくさん読んだ方が体得しやすいでしょうね。スラリと読めて設定や結末にムリがない小説は完成度が高い。小説を書いてみて、売れている大衆小説に比べてゴツゴツしてる、読みにくい、設定や結末にムリがあるなと感じたら推敲した方がいいということです。
で、作品として完成度が高い小説を書くコツですが、設定をしっかり立てた上である程度の量を書くのが結局は一番の近道になります。量を書けば、作品一作ですべての要素を詰め込むのは不可能だということが体感できます。設定がしっかりしていても、初心者はなんでもかんでも一つの作品に詰め込みたがる。それもバランスが悪くなる原因です。
書く前に、あるいは書いている最中に、この作品で表現できるテーマや思想はここまで、と見切ることができるのもプロ作家の第一歩です。軽―く書いているようで、あるテーマに関しては掘り下げて書き尽くす。『ムネモシュネの地図』はそういう意味で、小説のお手本のような作品でもあります。
■ 遠藤徹 連載小説『ムネモシュネの地図』『第20回 (七)象の胸(コピ・ルアク)(後編)』縦書版 ■
■ 遠藤徹 連載小説『ムネモシュネの地図』『第20回 (七)象の胸(コピ・ルアク)(後編)』横書版 ■
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