小原眞紀子さんの新連載エセー『詩人のための投資術』『第一回 定期預金――呼ばれて飛び出て年利2.2%』をアップしましたぁ。現代の高度情報化社会は目まぐるしく変化し続けていますが、最もそれが端的に表れているのが経済分野です。石川は以前から経済エセーを掲載したいと思っていたのですが、斎藤都御大と佐藤知恵子嬢に断られてしまひ、すでに詩と小説の連載をしていただいておりますが、無理を言って小原眞紀子さんに書いていただくことにしました。ただ『詩人のための投資術』というタイトルからわかるように難しい経済学の話ではありません。身近な投資関連のお話です。その方が役に立つ情報が多いと思います。
文学金魚の編集後記では、かなり頻繁に作家の経済といふかお金の話を書いています。多くの文学者が一番弱い分野だからです。しかし自分の仕事の経済はできるだけ把握しておいた方がいい。これも何度も書いていますが特に純文学作家の経済環境は厳しい。これだけフリーライターが増え、旅行、グルメ、ファッション、読書分野などに細分化して仕事を取り合っている現状では、作家に雑文書きの仕事はあまり落ちてこない。もちクライアントの要望通りの内容と枚数を書くフリーライターの仕事は、作家の社会性を養う訓練にはなるにせよ、元々本業ではありません。しかしフリーライターという職種が珍しかった戦後のある時代までは、雑文書きは作家のそれなりの収入になったわけです。
じゃあ文芸誌に書けばいいのかと言えば、これも厳しい。文芸誌の原稿料は下がっていますし、文芸誌にコンスタントに作品が掲載される作家自体、ほんの一握りです。大衆小説は純文学より恵まれていますが、それでも一時期ほどの売れ行きがないので、どうしても売れっ子作家に頼りがちです。何が売れるのか出版のプロである編集者すら予想しにくい時代なので、どうしても安全パイに傾きがちということでもあります。つまり新人作家参入の道は険しい。本の売り上げで生活できないにせよ、どこからも本が出ない作家はとっても苦しいことになります。純文学作家は文筆業としては、最低部数の本を売り上げる以外、生きる道がないのです。まあ原点に戻ったとも言えます。
金魚屋にも本を出してほしいというお話は時々あります。でも過去に出版した本が何部売れたのか把握している作家はあまりいません。本が出ればアガリという思考回路になっているようです。ただそれではダメです。版元が期待する最低部数が売れなければ本は出なくなる。当たり前のことです。実売部数を知って厳しい現実に直面しなければなりません。作家はどうやって売るか、何をウリにするか、次はどう工夫するかを実売部数を元に真剣に考えなければならないのです。どんな仕事でも他者との共同作業です。本が出ればアガリという作家と、売れなかったけど次はこうしたいとプレゼンする作家では版元の熱意が当然違ってきます。
もちろん本が売れればいいというわけではありません。宮沢賢治、石川啄木、中原中也の詩集や歌集は自費出版ですが高い文学的評価を得ています。自分の作品に自信があるなら、誰がなんと言おうと自分が考える通りの形で自費出版する方法もアリです。ただその場合は文学以外で稼がないといけませんね。経済はどこまでも付いて回るのです。また勢いだけで自費出版できるのはせいぜい4、5冊までで、たいていの作家はだんだんテンションが落ちてくる。本が売れないというのは精神的にも厳しいことなのです。
作家は文学史に名前が残る作家を作家の典型としてイメージしたりするわけですが、実際には例外中の例外です。ほとんどの作家はコンスタントに作品を書いて発表し、本にまとめていかなければ本質的に変化も進歩もしません。自費でそれをやるにせよ版元と協力するにせよ経済はついてまわる。経済から目を背ければ必ず足を掬われます。浮世離れした作家稼業につきたいと強く願うのなら、絶対に社会的経済感覚は必要です。
『詩人のための投資術』には現代の様々な投資話が出てきます。半沢直樹は経済の世界ではもやは江戸時代くらいの話なのです。リアルタイムのお金と経済のお話が多い。投資という面だけでなく、現代社会を理解するという意味でも参考になるエセーです。
■ 小原眞紀子 新連載エセー『詩人のための投資術』『第一回 定期預金――呼ばれて飛び出て年利2.2%』 ■
■ 第06回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
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