大野ロベルトさんの連載映画評論『七色幻燈』『第二十四回 映画の車窓から』をアップしましたぁ。ジャファル・パナヒ監督の『人生タクシー』を取り上げておられます。パナヒ監督自身がテヘランのタクシードライバーに扮して、車載カメラで乗客とのやりとりを撮ったドキュメンタリータッチの映画です。そこから敷衍して、大野さんは映画の中での車窓風景について論じておられます。
パナヒ監督はイラン人で欧米でもよく知られていますが、お師匠格がアッバス・キアロスタミ監督になります。イランはなぜか名監督が出るんですねぇ。ほかのイスラーム諸国では見られない現象です。キアロスタミ監督は小津安二郎が大好きで、全編日本ロケで『ライク・サムワン・イン・ラブ』も撮っています。デートクラブで働く女子大生が主人公で、概要を知った時はキアロスタミにそんな日本ドメドメの風俗が撮れんのかいなと思いましたが、さすが巨匠、極上の仕上がりになっていました。
『ライク・サムワン・イン・ラブ』でも冒頭にタクシーの車窓シーンがあります。主人公の女子大生が、デートクラブのオーナーに頼み込まれて、もう老人といっていい元大学教授の家に向かうシーンです。まあはっきり言えば、これから売春に行く主人公の女の子の顔はもの悲しい。車のガラスに映る女の子の顔、車窓から見える都会の風景などがえんえん映し出されます。日本映画ならプロデューサーから『ここカットね』と言われるでしょうね(爆)。ただそのシーンがいつまでも目に残る。監督に〝勇気〟がなければ撮れない絵です。主人公の女優は高梨臨、彼女につきまとう恋人を加瀬亮が好演していました。
車が右に曲がる、左に曲がる、また右に、左にというカットをつないで時間経過を圧縮し、ある場所からある場所への移動を表現する映画文法を作ったはヒッチコックあたりだと思います。この手法を好んで使った監督の一人にトリュフォーがいます。車窓は時間、距離、孤独が表現できる映画の撮り方であり、物語としては〝つなぎ〟に過ぎないですが、見終わってからそのシーンだけが心に残る映画は多いです。『千と千尋』で千尋とカオナシが乗った電車の車窓風景もそうだな。車窓風景は映画の宝なのでありますぅ。
■ 大野ロベルト 連載映画評論 『七色幻燈』『第二十四回 映画の車窓から』 ■
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