連載翻訳小説 e.e.カミングズ著/星隆弘訳『伽藍』(第14回)をアップしましたぁ。今回で『第三章 天路歴程』は終了です。『俺をぐるりと取り囲んで異様極まる物音が波のように湧き起こってきたんだ……さっきまで空っぽで狭苦しかった部屋が突如として巨大に広がった、奇怪な雄叫びが、罵り言葉が、高笑いが、部屋の空間を横に奥にと引き延ばし、想像もつかない無辺の深さと広さに押し拡げ、ぞっとするほどの至近距離にまで圧し縮めた』という記述は、『伽藍』という作品の一つの中心的喩でしょうね。
カミングズの『伽藍』は第一次世界大戦が舞台ですが、それが終了するといわゆる〝狂乱の時代〟が到来します。ヨーロッパは一次大戦の戦禍の影響から完全には立ち直れませんでしたが、パリのモンパルナスに多くの芸術家たちが集まりエコール・ド・パリが華開きます。そこに新興アメリカ文化が重なったわけですね。ガートルード・スタインのサロンや、シェイクスピア・アンド・カンパニー書店が世界中のとんがった芸術家たちの交流の場になりました。あ、ウディ・アレンが『ミッドナイト・イン・パリ』でこの時代を描いています。ステレオタイプなまでにミーハーなエコール・ド・パリの描き方をしていますので、この時代の表層的華やかさをお勉強するにはいい題材かもしれません。
カミングズももちろんエコール・ド・パリの一員でした。パウンドが書いたように〝野蛮な国〟からやって来たヤンキーの一人だったわけです。『伽藍』はカミングズの作品史の中では最もヤンキー的作品の一つですが、じょじょにシュルレアリスムなどの影響が色濃くなる。俳句にインスパイアされたイマジズムが生涯にわたってカミングズの詩法の一つになったのは言うまでもありません。タイポグラフィはアポリネールらが始めたそれを、極度に洗練させたものですね。異文化が本質的位相で衝突し合うと、思いがけないスパークを発するのです。ただそれには異文化にぶつけるための、基礎的自我意識(アイデンティティ)が必要なのは言うまでもありません。
■ e.e.カミングズ著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』(第14回)縦書版 ■
■ e.e.カミングズ著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』(第14回)横書版 ■
■ 第05回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第05回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■