小原眞紀子さんの連作詩篇『『ここから月まで』 No.019 列/双/間』をアップしましたぁ。小原さんのCool抒情詩第19弾です。『列』という詩はちょいとシニックですね。こういった作品は天野忠さんや飯島耕一さんらが得意としていました。人間の世の中を俯瞰して捉える認識がなければ書けないタイプの詩です。
だからヒトとの間をあけて
快楽にひたる
光と陰が交互に
時をきざんでゆくのを
どこかにとどく前提のもとに
どこにも行き着かない存在であることを
日と夜が入れかわり
年老いて並ばなくなれば
そこに息子が並ぶのを見るのを
(小原眞紀子『列』)
自由詩のコンテンツがアップされるたびに石川は厳しいことを書いていますが、それは詩人たちの認識系の転換を促すためです。戦後の1960年代から80年代にかけて、詩人はなんとなく多少の収入を得られる文学状況がありました。しかし石川は、そういった時代はもう来ないと思います。特定の詩集がたまさか売れることはあっても、自由詩の業界が全体として盛り上がる時代は来ないということです。厳しいけどまず間違いないです。
現在では小説純文学界で、かつての詩の世界のように企画出版と自費出版がせめぎ合い始めています。また一昔前は詩人の生活の糧だった大学の先生等々を、芥川賞受賞作家さんたちなどが占めるようになっています。もちろん職業に貴賎はありませんが、詩と小説に限らず、純文学系の作家は経済的に追い詰められている。この状況を全体として変えるのは非常に難しい。むしろますます悪くなってゆくでしょうね。ここから抜け出す方法は、はっきり言えば〝抜け駆け〟しかありません(爆)。
資本主義社会では、文学といえども社会状況の変化が経済変化として端的に表れます。日本はアメリカより2、30年遅れていると言われますが、それは経済活動についてはまったく正しい。アメリカほど拝金主義の国ではない日本などでは、アメリカ的超功利主義的経済システムが、ゆっくりとしか進行しないということです。アメリカの詩人は日本の詩人より悲惨かもしれない。ただウルトラ資本主義を生き抜くためのサンプルも、アメリカにあると思います。
一つの例はポール・オースターでしょうね。彼は詩人で小説家で映画の脚本家です。つまりマルチジャンル作家です。はっきり言えば、小説家で映画シナリオライターであることで、かろうじて詩が読まれている。詩人が純文学系の矜恃を維持して、狭い詩壇でなく、一般社会で認知され、それなりの対価を得て活動してゆく方法は恐らくこれ以外にない。ポール・オースターは、いうまでもなく1980年代の作家です。また純文学系のエンタメ作家だと言ってもいいと思います。
これもはっきり言えば、詩壇はよその世界で通用しない人間の吹きだまりになりつつあります。詩人であることを、社会的落伍者であることを覆い隠すためのエクスキューズとして利用している。もちろん昔から詩の世界にはそういった人が大勢いたわけで、詩は元来的にぬるい土壌を持っている。問題は詩壇に、かつてのように優秀な人材が見当たらなくなったということです。ただ一方で、若い詩人を中心に、ドメスティックな詩壇を見切る作家が増えています。それは今の詩の状況を鑑みれば当然です。ドメドメの詩壇にいたのでは、作家に明日はないからです。
最果タヒを始めとして、優秀な若い詩人はガラパゴス的詩壇を相対化して活動してゆくことになると思います。しかし本当に厳しいのは中堅以上の詩人です。認識系を転換させなければ、旧態依然として未来の見えないドメドメ詩壇にしがみつくしか道はなくなる。マルチジャンル作家として打って出ようとしても、商業出版であるゆえに、自費出版詩壇よりも経済的に厳しい文芸誌が注目し便宜を図ってくれるはずもない。自費出版に出版基準はないですが、商業出版では取捨選択される。特殊な〝詩壇文章〟を書き慣れた詩人たちはこの敷居を超えられない。本心ではくだらない、ムダだと感じながら、結局は狭い詩壇を走り回ることになる。
ただ作家は生きて文筆活動をしている限り、果敢にチャレンジして変わってゆかなければならないと石川は思います。またそういった作家に注目できる文学メディアは文学金魚くらいしかないでしょうね。小説や文芸評論を書いて既存小説文芸誌に持ち込んでみればわかります。少なくとも文学金魚は作品を読み、可能性があれば作家ごとにその方向性を検討しますが、ほとんどの文芸誌では間違いなく門前払い(いつまでたっても返事すらもらえない)を食らいます。
石川は詩壇に対してあまりいい印象は持っていませんが、自由詩は好きです。優れた自由詩は表現としてやはり素晴らしい。ただそれを世の中に出すための方法を変えなければ、詩人たちはさらにどんどん追い詰められてゆくだけです。貧すれば鈍すというのは本当のことです。詩人さんたちの思い切った認識系の転換と奮起を心から期待しているのであります。
■ 小原眞紀子 連作詩篇 『『ここから月まで』 No.019 列/双/間』 縦書版 ■
■ 小原眞紀子 連作詩篇 『『ここから月まで』 No.019 列/双/間』 横書版 ■
■ 第05回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第05回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
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