連載翻訳小説 e.e.カミングス著/星隆弘訳 『伽藍』(第07回)をアップしました。今回のパートはいいですね。カミングスさんらしい乾いた抒情です。『伽藍』はストーリーを追ってゆくタイプの小説ではないので、細部の描写がキモとなります。『伽藍』には実に人間らしい天使と悪魔がたくさん登場します。
『伽藍』は第一次世界大戦への参戦経験を元に書かれた小説です。日本人にとって決定的な戦争体験は第二次世界大戦(太平洋戦争)ですが、ヨーロッパやアメリカ人にとっては第一次世界大戦が非常に衝撃的だった。二次大戦は一次大戦で解消されなかった様々な矛盾が再び湧き出した戦争でした。この戦いで19世紀的フレーム――ヨーロッパの世界支配を含む――が崩れました。ダダやシュルレアリスム運動が起こったのも一次大戦後です。
文化の変化は独自に起こるわけではなく、世界の変化と密接に関係しています。閉ざされた、だけど経済的にはリッチな巨大な島国だったアメリカは、第一次世界大戦で初めてヨーロッパという、当時の世界の中心の紛争に参戦したわけです。カミングスの『伽藍』では、主人公はあえて無粋なヤンキーを装っているところがありますが、その心は柔らかい。そして野蛮で繊細で誇り高いヤンキーが、ヨーロッパの闇的なものを見つめている。
この時代に現れたヨーロッパの思想家にサルトルがいます。彼の思想は暗い。虚無的な面があります。戦火が迫る古い書斎の中で、ヨーロッパが没落してゆくのをじっと見つめているような暗い視線です。戦後サルトルはアンガージュマンを始めますが、それは彼にとって生きてゆくための希望だったかもしれない。さて、わたしたちの現代はどーなってゆくんでしょうね。連綿と続く優れた作家たちの仕事がそれを示唆してくれるかもしれません。
■ 連載翻訳小説 e.e.カミングス著/星隆弘訳 『伽藍』(第07回) 縦書版 ■
■ 連載翻訳小説 e.e.カミングス著/星隆弘訳 『伽藍』(第07回) 横書版 ■
■ 第04回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第04回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■