第03回 文学金魚新人賞受賞作 青山YURI子さんの新連載小説『ショッキングピンクの時代の痰壷』『No.002 大きな国の、あるクラス/Trip A』をアップしましたぁ。青山さん、お写真で見ると整った顔立ちの美人さんなんですが、小説ビジュアルイメージとはまた違いますなぁ(爆)。
いつの間にか自分のラップトップの画面がスクリーン上に映し出されている。同級生の目の前に晒され、緊張しているように見える巨大なスクリーン。これでは今、私のしていることがばれてしまう。私の秘密の情報がびっしりと並ぶデスクトップ。(中略)画像のサムネイル、生のワード原稿のショートカット。いちごのショートケーキの様に、わたしにとっては、どれも誘惑の匂いを放つ。今すぐ手に取りたい、つまり、今すぐ開いていじりたい。指を白い中に突っ込んで、余計な蠅のような黒い文字を抜き取って、もう一度真っ白にして、はじめの一噛みをやり直したい。わたしの目は獲物を狙う目になって、すぐにでもこれらワード原稿を開いて飛びかかってゆきたくなる。クラスの生徒は、なぜわたしがこんな目の色をしてるのか、不思議に思う。
(青山YURI子 『大きな国の、あるクラス』)
こういった箇所に、青山作品の特徴がよく表れているでしょうね。『指を白い中に突っ込んで、余計な蠅のような黒い文字を抜き取って、もう一度真っ白にして、はじめの一噛みをやり直したい』という欲望が手に取るように伝わってきます。『ショッキングピンクの時代の痰壷』は、壊れて解体し、でも消滅寸前でかろうじて小説の形としてまとまった作品だと言えるかもしれません。
前衛小説の定義は複数存在すると思います。一番わかりやすいのは従来の小説作法を壊すことです。テニオハ的書き方、起承転結などのルールを変えれば多かれ少なかれ前衛的に見えます。新たな要素を小説に取り入れる方法もあります。純文学作品の場合、心理学の最新成果を取り入れるとか、今まで誰も詳細に書かなかった人間心理に注目するといった方法です。さらに作家の表現欲求が、あらゆる既存の小説作法に合致しないという場合もあります。青山さんの小説は最後の欲動かもしれません。意図的な前衛小説でない分、圧が高い。
〝わたしの居場所はどこ?〟と作家の精神が彷徨い続けている限り、作品は不定形に揺れ続けるでしょうね。この欲動が作家にとって過渡期のものなのか、あるいは本質的にそうでずっと変わらないのかはわたしたちにはわかりません。ただそれをそのまま表現して作品にまとめるのは難しい。得難い作家かもしれません。
■ 青山YURI子 連載小説『No.002 大きな国の、あるクラス/Trip A』 縦書版 ■
■ 青山YURI子 連載小説『No.002 大きな国の、あるクラス/Trip A』 横書版 ■
■ 第04回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第04回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
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