連載文芸評論 鶴山裕司著『夏目漱石論-現代文学の創出』(日本近代文学の言語像Ⅱ)(第08回)をアップしましたぁ。『漱石論』は『日本近代文学の言語像』三部作の中の一冊で、『正岡子規論』、『森鷗外論』といっしょに今春金魚屋から三冊同時刊行されます。今回は『第Ⅱ章 漱石小伝』より『朝日新聞入社 ―― 職業作家へ』です。
朝日新聞入社後に漱石は『虞美人草』、『坑夫』と小説を書き継ぐわけですが、鶴山さんは門下生の森田草平と平塚明子(雷鳥)の心中未遂事件について書いておられます。森田は既婚で雷鳥は学生だったのですが、心中しきれずに警察に保護されて東京に連れ戻されました。森田は短期間、漱石宅に身を隠すことになりましたが、この事件について話し合った時、漱石は『遊びであつたにせよ、なかつたにせよ、結局、君等が死んで帰りさへすれば、何も問題はなかつたのだ。事実がそれを証明してくれるから』と草平に言い放ちました。
「煤煙事件」は単なるスキャンダルというだけではなく、漱石に大きな文学的刺激を与えた。鷗外が四十一歳の時に二十三歳の荒木しげと再婚することで、観念としてではなく、しっかりとした肉体感覚を持って明治四十年代の「現代」を言語化し得る糸口を見出したのと同様に、明治四十一年(一九〇八年)に四十二歳になっていた漱石は、若い門下生たちの言動から「現代」の若者たちの風俗や心理を描くきっかけを掴んだ。漱石は『それから』で主人公に草平の『煤煙』批判をさせているが、『三四郎』でも若い門下生たちの言動を作品に取り入れた。
(鶴山裕司『漱石小伝 朝日新聞入社 ―― 職業作家へ』)
江藤淳さんが漱石と兄嫁との間に、秘められた恋愛関係があったのではないかという仮説を立ててから(証明されていません)、にわかに漱石文学の姦通の主題がクローズアップされたことがあります。しかし石川も、漱石の姦通の主題は、森田と雷鳥の突飛な行動などから発想された可能性が高いと思います。姦通が主題となった小説は『それから』ですが、漱石は純愛の成就を描いていないからです。漱石が描いたのは、むしろ現世的な愛のあやふやさです。そういった機微の裏付けが得られるのが、『漱石小伝』の面白いところです。
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