佐藤知恵子さんの文芸誌時評『大衆文芸誌』『No.100 オール讀物 2016年04月号』をアップしましたぁ。松井今朝子さんの『縁は異なもの』を取り上げておられます。松井さんは直木賞作家ですが、武智鉄二さんに師事した脚本家・演出家でもあります。直木賞受賞作の『吉原引手草』はいい作品でした。江戸学者が時代小説を書くと、こうなるのかと深く納得した覚えがあります。でも最近ではちょいと大衆文学にシフトしておられるやうな。
江戸封建社会が男社会だったのは間違いありません。女性たちが歴史の表舞台に登場することは、少なくとも正史の上ではほぼありません。文化面でもそうです。ただ女性たちが単に虐げられていたと言うのも正確ではないはずです。女たちが社会的権力を持つ男と交わす言葉が、結果として物事を動かしたことは多いはずなのです。(中略)女性作家様は、閨房とか台所とかで交わされる、秘やかな話で男たちを動かす物語を書くのが得意なところがございます。でも男社会の残酷な権力を描くのはちょっと不得手ね。女の言葉が男を動かしても、その先の社会システムの変革にはまだまだ距離がございます。もちろん松井先生はそんなことは重々ご承知でしょうから、腰の据わった長編小説では江戸社会全般を視野に入れて、それを突き抜けるような、つまり現代にも通じるような倫理や正義を描き出されることと思いますわ。
(佐藤知恵子)
権力者が男であろうと女であろうと、小説で権力の内実を描くのは意外に難しいものです。人情はもちろん、時には正論も通らないのが権力の世界です。だから権力者は沈黙しがちになる。逆に言うと、人間心理を詳細に描く小説は、実際には筋道が通らない権力に、ある筋道を付けてしまいがちになる。そうすると権力の実態からどんどん離れてしまうのですね。
佐藤さん的な考え方をすれば、女子供の真っ当で無垢な言葉が男を動かしたと設定しても、それが理想通りになるとは限らないといふことです。これは大衆小説と純文学の分かれ目かもしれません。
■ 佐藤知恵子 文芸誌時評『大衆文芸誌』『No.100 オール讀物 2016年04月号』 ■
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