鶴山裕司さんの連載エセー『続続・言葉と骨董』『第054回 魔法使いのクートラスおじさん(前半)』をアップしましたぁ。ロベール・クートラスは1930年に生まれ1985年に55歳で没したフランスの画家です。鶴山さんはクートラスは魔術師だと書いておられます。
クートラスは魔術師だ。手に触れるものすべてを魅力ある美術作品に変えてしまう。ヨーロッパの魔女はたいてい黒ずくめである。その力を利用すれば誰もが羨む富貴になれるのに、人目を避け、質素な暮らしをしている。その力は神に近いが、神と違うのは人間の中にある聖性だけでなく、暗黒面をも炙り出してしまうことにある。魔女が好むのはガラクタ、そうでなければ美と権力の象徴だ。木の葉を金貨に変え、美青年の王子様を醜い蛙に変えてしまう。
ただ魔法が解けるのは物語の付け足しに過ぎない。無価値な木の葉が本物の金貨になり、美男の王子様が決して触れたくない本物のグロテスクな蛙になってしまうから人は驚き、怖れるのだ。そして魔女は人間たちに懇願されるまで、たいていは自分がかけた魔法のことを忘れている。なぜか。貧と富貴、美と醜が魔女にとっては等価だからだ。それが世界の本質である。
現世的絶対規範が崩壊してしまったことで、あわてふためく人間たちを魔女は嗤っている。しかしその姿にショックを受けてもいるだろう。魔女はこの世に居場所がない。秩序の攪乱者として現世から追放される。だが子どもたちだけはいつも魔女の仲間だ。子どもたちはいずれ人間世界に戻らなければならないと知りながら、消えゆく魔女の姿を振り返り魔力の本質をおぼろに心に刻みつける。
(鶴山裕司)
鶴山さんのクートラス論は後編に続きます。じっくりお楽しみください。
■ 鶴山裕司 連載エセー『続続・言葉と骨董』『第054回 魔法使いのクートラスおじさん(前半)』 ■
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