小原眞紀子さんの連載純文学小説『神違え』(第10回 最終回)をアップしましたぁ。『神違え』もいよいよ最終回です。神違えには方違えの意味があるのですが、どうやら読んで字のごとしの〝神とは違う〟といった意味も付加されているようです。
「で、本当のところ、番台は何をしに御所議員宅へ」
連絡係よ、と守は言った。「俺と、議員とのさ」
たった八十八戸のマンションでも、家族、親族を巻き込めば数百の票になる。地方選では馬鹿にならない数であり、そういったところからしか事は始まらないのだと言う。
「結局、俺、御所さんが好きなのよ。やってやりたいのよ。そんで、あんたには悪いけど、来林ってのは結局、最初から好きじゃなかった。ああいう気ばっかし細かくて、そんでもってすぐ頭に血が上って、訳わかんなくなる奴はなあ」
そうだろう。
神ならぬ人間のすることは、結局は好き嫌いなのだ。
「なあ。俺のやってること、変か。まずいことか」
いいえ、とわたしは首を振った。
守はここでは白い法だ。誰も非難などするまい。
(小原眞紀子『神違え』)
日本中のどこにでもある、ほんの小さな集団にも存在する権力とそれが作り出す法と秩序が鮮やかに描き出されてゆきます。『神ならぬ人間のすることは、結局は好き嫌いなのだ』とありますが、森鷗外の名作『阿部一族』でも、内乱のきっかけになるのは殿様の好き嫌いでした。君主がなんとなく虫が好かない阿部という家臣にちょっとした意地悪をしたことから、それが藩をあげての阿部一族討伐の紛争になってしまうです。
ただ小原さんの『神違え』の小説テーマは、この一作で終わりそうにありませんね。権力のありかは移り変わってゆきます。権力の座についた者が常に正義なのです。しかし小原さんの小説にはそれを一気に相対化しようという視線がある。それがこの小説では呪術として表現されています。権力は正義ですが、それもまた移ろうものであります。
■ 小原眞紀子 連載純文学小説『神違え』(第10回 最終回) 縦書版 ■
■ 小原眞紀子 連載純文学小説『神違え』(第10回 最終回) 横書版 ■
■ 第04回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
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