連載文芸評論 鶴山裕司著『夏目漱石論-現代文学の創出』(日本近代文学の言語像Ⅱ)(第04回)をアップしましたぁ。『漱石論』は『日本近代文学の言語像』三部作の中の一冊で、『正岡子規論』、『森鷗外論』といっしょに来春金魚屋から三冊同時刊行されます。今回は『第Ⅱ章 漱石小伝』より『学生時代① ―― 最初の神経衰弱』です。漱石が若い頃から神経衰弱を患っていたことは有名です。それについては文学者だけでなく、心理学者も加わって論じています。
鶴山さんは、『養子体験や眼科医の女のほかにも、漱石文学を彼の幼少期から学生時代までのトラウマから読み解こうとする試みはいくつもある。(中略)しかし漱石文学の根底に決定的実体験を探ろうとする試みは、いつまでも合わないトランプの神経衰弱遊びに似ている。漱石は確かに自らの意志で神経衰弱を制御できなかった。だが漱石は、いわゆる「発作」の後に神経衰弱体験を自己省察し、それを社会的通有性のある文学主題にまで昇華している。漱石文学の本質を把握するためには、彼の病が最終的には言葉に、文学に昇華される質のものだったことを理解する必要がある』と論じておられます。特定の体験や病気のせいにしたのでは、漱石文学は正確に読み解けないというのが鶴山さんの一貫したスタンスです。
石川は鶴山さんの考えは正しいと思います。『第Ⅱ章 漱石小伝』には『『漱石とその時代』を未完のまま自死した江藤淳に』という献辞がついていますが、石川も江藤さんの『漱石とその時代』を読みました。江藤さんは、漱石は兄直矩の二番目の妻登世(とせ)と肉体関係を伴う恋愛関係にあったという仮定を大きな原動力にして『漱石とその時代』を書いた。しかし後期漱石に筆が進むにつれて江藤さんの評伝は苦しくなる。漱石の実体験を元に彼の文学を論評するのが難しくなるのです。それが江藤さんが『漱石とその時代』を未完のままに自死してしまった(自死できた)理由の一つだと思います。鶴山さんの『漱石小伝』は江藤さんとはスタンスがまるっきり違います。ただ偉大な先人への敬意はお持ちです。
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