小松剛生さんの連載ショートショート小説『僕が詩人になれない108の理由あるいは僕が東京ヤクルトスワローズファンになったわけ』『第019回 ある釘抜きの可能性(1)/ある釘抜きの可能性(2)/ある釘抜きの可能性(3)』をアップしましたぁ。今回はゆるいショートショート連作です。『彼女の愛するコインランドリーにはドラム式乾燥機が置かれているべきなのだ』とあるように、コインランドリーを愛している女の子のお話です。
コートレイン。
彼は胸を張って自分の着てきたものをひろげてみせた。
「レインコートじゃないの」
「違うよ、ほら、裏返しになってるだろ」
だから、コートレイン。
自慢げに彼はその「コートレイン」なるものをまた羽織って、大手を振って歩き始めた。彼女はため息を吐きながら、それもわざと彼に聞こえるように吐いてみせてから、彼の後を追いかけた。彼は振り返って、何を勘違いしたのか、今着たばかりのそれをまた脱いで「えっと、あげようか?」と訊いてきた。
「レインコートなら欲しいかな」
「強情だな」
彼はそう言って笑った。
む。
ブレーンバスターのひとつでもかけてやろうか、とも思ったけれど、世のすべての男の子がポンコツである可能性を考えると、彼のポンコツさも認めてあげる必要があるかもしれない。
たぶんだけど。
彼との思い出に雨の日が多いのは、コートレインのせいだ。
(小松剛生『ある釘抜きの可能性(1)』)
今回のショートショートには、小松さんの読者ならおなじみの、小松さん偏愛のサメやポテトサラダが出てきます。『コートレイン』もそうですが、何気ない日常生活品から空想を拡げてゆくところが小松さんの小説の醍醐味でもあります。
以前、小松さんの小説は〝壮大なムダ話〟だと認識することもできると書きましたが、これは悪い意味で言っているのではありません。小松さんの小説には透明で希薄な空気感があり、それは確実に現代社会を捉えています。過大評価だと言う人もいると思いますが、石川はこの希薄な空気感は村上春樹さんにも通じるものであり、かつ、小松さんの方がその現代性を肉体感覚として捉えていると思います。
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