大篠夏彦さんの文芸誌時評『No.027 文學界 2015年07月号』をアップしましたぁ。西村賢太さんの『芝公園六角堂跡』と荻野アンナさんの『ミッシェル』を取り上げておられます。いずれも私小説です。
大篠さんは、『西村は過去の私小説について考え抜いた〝メタ私小説作家〟である。私小説は(中略)〝自我意識の肥大化〟によって生まれた。(中略)人が強い自我意識を行使すれば、必ず他者や社会との軋轢が生じる。苦悩はそこから生まれる。(中略)もし現世的苦悩の全面解消を求めるのなら神(的概念)に帰依するしかないだろう。(中略)西村は(中略)「救済はない」というはっきりした断念から出発しているのである。そのため彼が描くのは現世的修羅であり、苦の世界である。しかし救済指向がない以上、その対局としての苦悩も本質的には存在しない。むしろ苦が世界の常態なのであり、それを描くのが世界を描くことだという姿勢が西村にはある』と批評しておられます。
神(による人間精神の救済)という概念を持たない日本文化が生み出した、最も残酷で不気味な小説形態が〝私小説〟です。もちろん日本の作家たちも様々な形で観念的極(救済)を求めました。志賀直哉『暗夜行路』は輪廻転生的な自然の移ろいにそれを見出しますし、三島由紀夫『金閣寺』は美を賛美し恐れ憎む僧侶の放火事件を描くことで、観念的極は存在するということを示唆しました。しかし日本文学の底流を為す私小説作家たちは、〝そんな観念、嘘に決まってるじゃないか〟と常に囁いています。私小説では決して解決策のない無間地獄に自己の精神を振り回されながら、しぶとく生き続けることがある種の〝悟り〟です。これは能などの中世文学にも通底する日本的精神です。
現実問題として見れば、この私小説、ほぼ「文學界」さんの専売特許です(爆)。時々「新潮」さんも私小説作家を売り出しますが、そのほかの文芸誌で私小説作家をスターに育ててゆくのは難しいだろうなぁ。もちろん文学金魚も自信がありません(爆)。ただ大篠さんが分析しておられる〝メタ私小説〟は、これからの私小説にとって重要な要素になると思います。私小説という文学形態を相対化することは、旧態依然とした私小説を文壇システムを刷新する力になるやもしれませぬぅ。
■ 大篠夏彦 文芸誌時評 『No.027 文學界 2015年07月号』 ■
Web文芸誌のパイオニア 文学金魚大学校セミナー開催(新人支援プロジェクト)
Web文芸誌のパイオニア 総合文学ウェブ情報誌文学金魚は、文学金魚執筆者によるシンポジウムと参加者の自由な質疑応答による参加型セミナーを開催します!。
・日時:2016年06月18日(土曜日)
・開始時間:午後03時30分~
・場所:近日中に発表します
・参加費:3.500円
■ テーマ ■
【テーマ】ジャンルの越境
純文学ラノベ、ロマンチック・ミステリ、純文学ホラー、自由な物語詩など、従来の文学ジャンルとは異なるオルタナティヴな文学を創り出すことを目指します。
【司会】
山田隆道(作家・TVコメンテーター)・小原眞紀子(詩人・東海大学文学部文芸創作学科非常勤講師)
■ プログラム(予定)■
① シンポジウム
第一部 偏態小説と純文学エンタメ小説について
三浦俊彦(作家・東京大学大学院教授)
遠藤徹(作家・同志社大学教授)
第二部 ラノベと(純)文学について
仙田学(作家)
西紀貫之(作家・フリーライター)
② リード小説大賞決定!
山田隆道(作家・TVコメンテーター)発案のリード小説(詳細は下記または『第一回『文学金魚大学校セミナー』開催記念インタビュー リード小説の意義について』参照)の大賞を決定し、大賞・奨励作については文学金魚への作品掲載を検討(バックアップ)します。
③ 第3回金魚屋新人賞第一次審査通過作紹介
④ 懇親会
いけのり(占い師・エッセイスト)の占いコーナーなど。
【Web文芸誌のパイオニア 文学金魚大学校セミナー(新人支援プロジェクト)の趣旨】
・才能ある若い作家の作品が発表できない、キャリアのある作家なのに一番出したい本にかぎって出ない、学者の卵の奨学金ですら返還義務があるなど、現在ではさまざまなジャンルが細分化され、文化間の交流がなくなっています。
・こんな時代だからこそ、文学金魚は創作者と読者、ジャンルとジャンルを繋ぐメディアとして誕生しました。
・セミナー参加者は新しい文学と出版カルチャー誕生の当事者・目撃者になれるかも!
・読むことと書くことの、あのワクワク感をみんなで取り戻そう!
【リード小説とは ~あなたの〝リード小説〟大募集!~】
・リード小説とは、あなたがすでに書いた、あるいはこれから書こうとしている未発表オリジナル小説の大筋やセールスポイント等をまとめた、映画でいえば、予告編です。
・文学金魚大学校第01回セミナーのお題として、書き下ろしリード小説をツイッター上で大募集します。完成原稿があるかどうかは問いません。
・選考は山田隆道(『第一回『文学金魚大学校セミナー』開催記念インタビュー リード小説の意義について』参照)が行います。講師の文学金魚連載作家陣も選考に加わります。リード小説から作家デビューの扉が開かれるかも。
・試されているのは自己プロデュース能力です。気楽に楽しんでください!
【総合文学ウェブ情報誌文学金魚について】
・文学金魚はジャンルの垣根を取り払い、文化融合的な状況の中から新たな日本文化を創・出することを目指します。
・セミナー参加者は楽しいお題で盛り上がるもよし、懇親会で人脈を広げるもよし。新たな文学シーン誕生のワクワクする瞬間、その当事者・目撃者になれるかもしれません。
・今は積極的に自己アピールし、様々な方法で作家としての活路を切り開いてゆける時代です。ネットと紙出版のインタラクティブな関係性にリアルな人間の息吹きを吹き込んで、文学カルチャーのホットスポットを創り出そう!