小原眞紀子さんの連載小説『はいから平家』(第11回)をアップしましたぁ。み幸さんと洋彦さんは四国旅行中です。のっけから、車のトランクに入れていた漬け物バケツがひっくり返って大騒ぎですが、地上の下世話と天上を行き来するのが『はいから平家』の面白さだと思ひます。
島を縦に貫く広々と空いた道路を、車は滑るように進んでゆく。
空の果て、海の彼方から男女の神を先導したのは猿田彦だという。
人々に言葉を与え、食物のこと、機織りのこと、さまざまな知識を授けた後、猿田彦は輝きながら分解し、そのままこの国中に拡散したという。
み幸はダッシュボードから交通安全の札を取り出して眺める。
伊勢神宮の手前、猿田彦神社の表書きは白地にくっきりと浮かんでいる。見つめていると、文字がばらばらになって読めなくなる。どこか遠くからやってきた人の表情のように、五つの文字は黙ってみ幸を見返している。
こういふ文章には確かに詩人の息づかいがありますね。小説には地上の物語でなければならないという約束事といふか、どうしてもそこに戻ってきてしまうアイデンティティがあります。しかし天上を描いていけないわけではない。中上健次作品などが典型的ですが、地上的なものが天上界に抜ける爽快感もまた、小説ならではの表現です。み幸さんと洋彦さんが車を使い、地を這って移動しているのは象徴的ですね。
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■ 小原眞紀子 連載純文学小説 『はいから平家』(第11回) テキスト版 ■